第19巻4207

1   ここにして そがひに見ゆる       ここにして そがひにみゆる

2   我が背子が 垣内の谷に         わがせこが かきつのたにに

3   明けされば 榛のさ枝に         あけされば はりのさえだに

4   夕されば 藤の繁みに          ゆふされば ふぢのしげみに

5   はろはろに 鳴く霍公鳥         はろはろに なくほととぎす

6   我が宿の 植木橘            わがやどの うゑきたちばな

7   花に散る 時をまだしみ         はなにちる ときをまだしみ

8   来鳴かなく そこは恨みず        きなかなく そこはうらみず

9   しかれども 谷片付きて         しかれども たにかたづきて

10  家居れる 君が聞きつつ 告げなくも憂し いへをれる きみがききつつ つげなくもうし

意味:

1   ここ(家持の館)にして 背後に見える

2   私の主人の 垣根の中の谷(広縄の館がある)に

3   朝が明ければ ハンノキの枝に

4   夕方になれば 藤の繁みに

5   遥々と 鳴くホトトギス

6   私の家の 庭の橘の木は

7   花が散るには 時期が早いので

8   まだ来て鳴かない そこは恨まない

9   しかし 一方が谷に面している

10  家に居る 君が聞いても そのことを告げてくれないのはつらい

作者:大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「22日に判官久米朝臣広縄に贈るホトトギスを恨む歌」となっています。

ハンノキ

 

上のハンノキの写真で、細長いのは雄花で丸いのは雌花です。ハンノキは、冬の2月から3月に花を付けます。写真は2月中旬です。

 

第19巻4208

我がここだ 待てど来鳴かぬ 霍公鳥 ひとり聞きつつ 告げぬ君かも

 

わがここだ まてどきなかぬ ほととぎす ひとりききつつ つげぬきみかも

意味;

私はここだ 待てど来て鳴かない ホトトギスを 一人聞いているのに 告げない君なのか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4207の反歌です。

 

第19巻4209

1   谷近く 家は居れども          たにちかく いへはをれども

2   木高くて 里はあれども         こだかくて さとはあれども

3   霍公鳥 いまだ来鳴かず         ほととぎす いまだきなかず

4   鳴く声を 聞かまく欲りと        なくこゑを きかまくほりと

5   朝には 門に出で立ち          あしたには かどにいでたち

6   夕には 谷を見渡し           ゆふへには たにをみわたし

7   恋ふれども 一声だにも いまだ聞こえず こふれども ひとこゑだにも いまだきこえず

意味:

1   谷の近くに 家はあるが

2   木が高い 里であるが

3   ホトトギスは いまだ来て鳴きません

4   鳴く声を 聞きたいと思って

5   朝には 門に出でて立ち

6   夕には 谷を見渡し

7   恋いしているが 一声も いまだ聞こえません

作者:

久米広縄(くめのひろただ/ひろつな)この歌は大伴家持の4207に対する応答になっています。

 

第19巻4210

藤波の 茂りは過ぎぬ あしひきの 山霍公鳥 などか来鳴かぬ

 

ふぢなみの しげりはすぎぬ あしひきの やまほととぎす などかきなかぬ

意味:

藤の花の波の 茂りは過ぎてしまったが 裾を長く伸ばした 山のホトトギスは どうして来て鳴かないのか

作者:

久米広縄(くめのひろただ/ひろつな)この歌は、4209に対する反歌です。

 

第19巻4239

二上の 峰の上の茂に 隠りにし その霍公鳥 待てど来鳴かず

 

ふたがみの をのうへのしげに こもりにし そのほととぎす まてどきなかず

意味:

二上山の 峰の上の茂みの中に 隠れている ホトトギス 待っているが来て鳴かない 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは「ホトトギスを詠む歌1首」となっています。

 

第20巻4305

木の暗の 茂き峰の上を 霍公鳥 鳴きて越ゆなり 今し来らしも

 

このくれの しげきをのへを ほととぎす なきてこゆなり いましくらしも

意味:

木の下の暗く 茂った峰の上を ホトトギスが 鳴いて越える 今にもこの里に来るらしい 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスを詠む歌1首」となっています。

 

第20巻4437

霍公鳥 なほも鳴かなむ 本つ人 かけつつもとな 我を音し泣くも

 

ほととぎす なほもなかなむ もとつひと かけつつもとな あをねしなくも

意味:

ホトトギスよ ますます鳴いてしまおう 亡き人を むやみに呼んで 私も声を出して泣く

作者:

元正天皇(げんしょうてんのう)天智天皇の崩御後、立太子していた24歳の草壁皇子(父、天武天皇、母、皇后鵜野讃良)が若さと当時発生した事件の関係で即位することなく、皇后鵜野讃良が持統天皇として即位する。この3年後には、草壁皇子は薨去する。持統天皇は7年後に、草壁皇子の子(軽皇子,14歳)に譲位(文武天皇の誕生)、すなわち自分の孫に譲位して自分は、持統太上天皇として政権(初めての院政)を維持する。しかし文武天皇は25歳で病気で崩御してしまった。持統太上天皇はこの3年前に崩御している。文武天皇の後を継いだのは、文武天皇の母親、すなわち草壁皇子の妃で、元明天皇です。これは、文武天皇の子、首(後の聖武天皇)が6歳と小さかったために中継ぎとして即位したものです。元明天皇は、7年後(首、13歳)に、娘の氷高(ひたか)に譲位する。この氷高がこのホトトギスの歌の作者である元正天皇である。元正天皇は、日本で初めて、母から娘に譲位された天皇である。この歌の中で、氷高は、亡き人を大声で呼んで泣いてしまおうと歌っているが、氷高が天皇になるまでに、また、なってからもたくさんの親しい人たちが病気や戦いや落としめられて亡くなっているので、その人達を思い出して泣いてしまおうと歌っているのである。氷高に最も近くで亡くなった人たちには、藤原氏の陰謀て自殺に追い込まれた長屋王や長屋王に嫁いでいた妹の吉備内親王などがいる。

 

第20巻4438

霍公鳥 ここに近くを 来鳴きてよ 過ぎなむ後に 験あらめやも

 

ほととぎす ここにちかくを きなきてよ すぎなむのちに しるしあらめやも

意味:

ホトトギスよ ここの近くに 来て鳴きなさい この時を過ごした後では 霊験があるだろうかそうなことはないな

作者:

薩妙觀(さつ みょうかん)元正天皇に仕えた女官、万葉集には3首の歌がある。

 

第20巻4463

霍公鳥 まづ鳴く朝明 いかにせば 我が門過ぎじ 語り継ぐまで

 

ほととぎす まづなくあさけ いかにせば わがかどすぎじ かたりつぐまで

意味:

ホトトギスが 最初に鳴く朝明け どうすれば 私の家の門を素通りしないようにできるか 語り草になる程に

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第20巻4464

霍公鳥 懸けつつ君が 松蔭に 紐解き放くる 月近づきぬ

ほととぎす かけつつきみが まつかげに ひもときさくる つきちかづきぬ

意味:

ホトトギスを 心にかけながら皆で 松の陰で くつろぎ語り合って思いを晴らす 待っていた月が近づいた  

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)さすがに家持の歌は難しいです。