第18巻4168

毎年に 来鳴くものゆゑ 霍公鳥 聞けば偲はく 逢はぬ日を多み

 

としのはに きなくものゆゑ ほととぎす きけばしのはく あはぬひをおほみ

意味:

毎年 来て鳴くものですから ホトトギスの声を 聞けば心にしみるよ その声を聞けない日が多かったので

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、18.12章の4166の「ホトトギスに合わせて時の花を読む歌」の反歌として詠われたもの。

 

第18巻4169

   霍公鳥 来鳴く五月に       ほととぎす きなくさつきに

2   咲きにほふ 花橘の        さきにほふ はなたちばなの

3   かぐはしき 親の御言       かぐはしき おやのみこと

4   朝夕に 聞かぬ日まねく      あさよひに きかぬひまねく

5   天離る 鄙にし居れば       あまざかる ひなにしをれば

6   あしひきの 山のたをりに     あしひきの やまのたをりに

7   立つ雲を よそのみ見つつ     たつくもを よそのみみつつ

8   嘆くそら 安けなくに       なげくそら やすけなくに

9   思ふそら 苦しきものを      おもふそら くるしきものを

10  奈呉の海人の 潜き取るといふ   なごのあまの かづきとるといふ

11  白玉の 見が欲し御面       しらたまの みがほしみおもわ

12  直向ひ 見む時までは       ただむかひ みむときまでは

13  松柏の 栄えいまさね 貴き我が君 まつかへの さかえいまさね たふときあがきみ

意味:

   ホトトギスが 来て鳴く五月に

2   咲き匂う 花橘の

3   香しい 母のお言葉

4   朝夕に 聞けない日は好ましくない事態をもたらします

5   天遠く離れている 地方にいれば

6   裾を長くの延ばした 山の尾根に

7   立つ雲を 遠くから見るばかりで

8   嘆く心は 安らかでない

9   思う心は 苦しいものだ

10  奈呉(高岡市から新湊市の付近)の海人は 水中に潜って取るという

11  真珠のような 美しい顔

12  直接向かって 逢える時まで

13  松や柏(かしわ)のように 変わらずにいてください 貴き我が君

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、家婦(家持の妻、坂上大嬢)の京にいる尊母(坂上郎女)に贈るために頼まれて作る歌となっています。

 

第18巻4171

常人も 起きつつ聞くぞ 霍公鳥 この暁に 来鳴く初声

つねひとも おきつつきくぞ ほととぎす このあかときに きなくはつこゑ

意味:

普通の人は 起きている時に聞きます ホトトギスの声を この夜明け前に 来て鳴くのは初声です

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは24日は立夏四月の節にあたる。これによりて23日の暮れに、たちまちにホトトギスの明け方前に鳴く声を思って作る歌2首」となっています。2首目の歌は、次の4172です。

 

第18巻4172

霍公鳥 来鳴き響めば 草取らむ 花橘を 宿には植ゑずて

ほととぎす きなきとよめば くさとらむ はなたちばなを やどにはうゑずて

意味:

ホトトギスが 来て鳴き響かせれば 野に出て草を取ってその声を聞こう 橘の花を 自分の家には植えないで

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4171と対になっている歌で、4171が鳴き始め、4172は、盛んに鳴く頃を歌っています。

 

第18巻4175

霍公鳥 今来鳴きそむ あやめぐさ かづらくまでに 離るる日あらめや

 

ほととぎす いまきなきそむ あやめぐさ かづらくまでに かるるひあらめや

意味:

ホトトギスが 今来て鳴き始めました 菖蒲草を蔓にする節句までに どこかに行ってしまう日などあろうか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌にタイトルは、「ホトトギスを詠む歌2首」となっています。

 

第18巻4176

我が門ゆ 鳴き過ぎ渡る 霍公鳥 いやなつかしく 聞けど飽き足らず

 

わがかどゆ なきすぎわたる ほととぎす いやなつかしく きけどあきたらず

意味:

私の家の門を通って 鳴き過ぎ渡る ホトトギスよ 大変なつかしく 聞いていると飽きることはないよ 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌にタイトルは、「ホトトギスを詠む歌2首」の内の二つ目の歌です。

 

第18巻4177

1   我が背子と 手携はりて       わがせこと てたづさはりて

2   明けくれば 出で立ち向ひ      あけくれば いでたちむかひ

   夕されば 振り放け見つつ      ゆふされば ふりさけみつつ

   思ひ延べ 見なぎし山に       おもひのべ みなぎしやまに

   八つ峰には 霞たなびき       やつをには かすみたなびき

   谷辺には 椿花咲き         たにへには つばきはなさき

   うら悲し 春し過ぐれば       うらがなし はるしすぐれば

   霍公鳥 いやしき鳴きぬ       ほととぎす いやしきなきぬ

   独りのみ 聞けば寂しも       ひとりのみ きけばさぶしも

10  君と我れと 隔てて恋ふる      きみとあれと へだててこふる

11  砺波山 飛び越え行きて       となみやま とびこえゆきて

12  明け立たば 松のさ枝に       あけたたば まつのさえだに

13  夕さらば 月に向ひて        ゆふさらば つきにむかひて

14  あやめぐさ 玉貫くまでに      あやめぐさ たまぬくまでに

15  鳴き響め 安寐寝しめず 君を悩ませ なきとよめ やすいねしめず きみをなやませ

意味:

1   私の主人(池主)と 手を取り合って

2   夜が明けると 表に出て面と向かって立ち

   夕方になると はるか遠くを望み見て

   思いを述べた 見ては心をなぐさめた山(二上山、富山県高岡市)に

   多くの山々には 霞がたなびき

   谷のあたりには 椿の花が咲き

   うら悲しい 春が過ぎれば

   ホトトギスが ますます鳴く

   一人でのみ 聞いているのは寂しいので

10  君と私が 離れて恋し合っている

11  砺波山(富山・石川県境にある)を 飛び越えて行って

12  夜が明け始めれば 松の枝の上で

13  夕方になったら 月に向って

14  菖蒲草を 玉に貫くまでの間

15  鳴き声を響かせて 熟睡し寝ることができないように 君を悩ませよ

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「4月3日の越前の判官大伴池主に贈るホトトギスの歌、感旧の心に勝てずに思いを述べる」となっている。感旧の心とは、池主と一緒に行動したことを懐かしむ心のことです。

 

第18巻4178

我れのみし 聞けば寂しも 霍公鳥 丹生の山辺に い行き鳴かにも

われのみし きけばさぶしも ほととぎす にふのやまへに いゆきなかにも

意味:

私一人で 聞けば寂しいことよ ホトトギスよ 丹生の山の辺りに 行って鳴いてください   

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4177の反歌で、池主に対する思いを歌っています。丹生の山は越前国府のあった武生市西方の山です。

 

第18巻4179

霍公鳥 夜鳴きをしつつ 我が背子を 安寐な寝しめ ゆめ心あれ

 

ほととぎす よなきをしつつ わがせこを やすいなねしめ ゆめこころあれ

意味:

ホトトギスよ 夜鳴きをしながら 私の主人(池主)を 熟睡して寝かせ 夢を見させてくださいな

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌も、4177の反歌です。前の歌と同様に池主に対する思いを歌っています。

 

第18巻4180

1   春過ぎて 夏来向へば        はるすぎて なつきむかへば

2   あしひきの 山呼び響め       あしひきの やまよびとよめ 

3   さ夜中に 鳴く霍公鳥        さよなかに なくほととぎす

4   初声を 聞けばなつかし       はつこゑを きけばなつかし

5   あやめぐさ 花橘を         あやめぐさ はなたちばな

6   貫き交へ かづらくまでに      ぬきまじへ かづらくまでに

7   里響め 鳴き渡れども なほし偲はゆ さととよめ なきわたれども なほししのはゆ

意味:

1   春が過ぎて 夏が来る季節に向へば

2   尾根を長く引いた 山のやまびことなって響く

3   真夜中に 鳴くホトトギスの

4   初声を 聞くとなつかしい

5   菖蒲草と 花橘を

6   貫いて交へ 髪飾りになるまでに

7   里で鳴き響かせよ 鳴き渡っても なほ心引かれるよ    

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスを感じる心に飽かずして、思いを述べて作る歌」となっています。