第18巻4084

暁に 名告り鳴くなる 霍公鳥 いやめづらしく 思ほゆるかも

 

あかときに なのりなくなる ほととぎす いやめづらしく おもほゆるかも

意味:

明け方に 自分の名前を告げてから鳴く ホトトギスがいる とても珍しく 感じられますね

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4089

1   高御座 天の日継と          たかみくら あまのひつぎと  

   すめろきの 神の命の         すめろきの かみのみことの 

   聞こしをす 国のまほらに       きこしをす くにのまほらに

   山をしも さはに多みと        やまをしも さはにおほみと

   百鳥の 来居て鳴く声         ももとりの きゐてなくこゑ

   春されば 聞きのかなしも       はるされば ききのかなしも

7   いづれをか 別きて偲はむ       いづれをか わきてしのはむ

   卯の花の 咲く月立てば        うのはなの さくつきたてば

   めづらしく 鳴く霍公鳥        めづらしく なくほととぎす

10  あやめぐさ 玉貫くまでに       あやめぐさ たまぬくまでに 

11  昼暮らし 夜わたし聞けど       ひるくらし よわたしきけど

12  聞くごとに 心つごきて        きくごとに こころつごきて

13  うち嘆き あはれの鳥と 言はぬ時なし うちなげき あはれのとりと いはぬときなし

 

意味:

1   天皇の座所 神代から受け継がれて来た皇位の継承と

   天皇の 神様の            

   お治めあそばす 国の素晴らしい場所に

   山が 非常に多く見える

   多くの鳥が 来て鳴く声

   春になって 聞くにつけひとしお心にしみる

7   どの鳥の声を 特別良いとほめるわけにはいかない

   卯の花が 咲く月になれば

   賞美すべき 鳴くホトトギス

10  節句に菖蒲を 玉に貫くまで

11  日が暮れるまで また夜通し聞けるけど

12  聞くごとに 心が激しく動いて

13  深い溜息をついて しみじみと感慨深く思う鳥と 言はない時はない

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌には、「一人とばりの裏に居て、遥かにホトトギスの鳴くを聞いて作る歌」というタイトルがついている。

 

第18巻4090

ゆくへなく ありわたるとも 霍公鳥 鳴きし渡らば かくや偲はむ

 

ゆくへなく ありわたるとも ほととぎす なきしわたらば かくやしのはむ

意味:

あてもなく 日を送るようなことがあっても ホトトギスが 鳴きながら渡れば こんなに偲ばれる(節句が)

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4091

卯の花の ともにし鳴けば 霍公鳥 いやめづらしも 名告り鳴くなへ

 

うのはなの ともにしなけば ほととぎす いやめづらしも なのりなくなへ

意味:

卯の花と 一緒に鳴けば ホトトギスが いや素晴らしいですね 名前を言って鳴きなさいな

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4092

霍公鳥 いとねたけくは 橘の 花散る時に 来鳴き響むる

 

ほととぎす いとねたけくは たちばなの はなぢるときに きなきとよむる

意味:

ホトトギスが まことに小憎らしてならぬのは 橘の 花が散った後で 来て鳴き騒ぐこと

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)橘の花を見るときに同時にホトトギスが鳴いて欲しいと歌っています。

 

第18巻4101

   珠洲の海人の 沖つ御神に         すすのあまの おきつみかみに

   い渡りて 潜き取るといふ         いわたりて かづきとるといふ

3   鰒玉 五百箇もがも            あはびたま いほちもがも

   はしきよし 妻の命の           はしきよし つまのみことの

   衣手の 別れし時よ            ころもでの わかれしときよ

   ぬばたまの 夜床片さり          ぬばたまの よとこかたさり

   朝寝髪 掻きも梳らず           あさねがみ かきもけづらず

   出でて来し 月日数みつつ         いでてこし つきひよみつつ

   嘆くらむ 心なぐさに           なげくらむ こころなぐさに

10  霍公鳥 来鳴く五月の           ほととぎす きなくさつきの

11  あやめぐさ 花橘に            あやめぐさ はなたちばなに

12  貫き交へ かづらにせよと 包みて遣らむ  ぬきまじへ かづらにせよと つつみてやらむ

意味:

   珠洲(能登半島最先端)の海人(あま)は 沖つ御神(能登北50kmの舳倉島を見立てる)に

   渡って 海中に潜って取るという      

3   鰒玉(あわびだま、真珠のこと) 五百箇もあったらいいな

   ああなつかしい 妻のみことよ

   たもとを分けた 別れし時より

   真っ暗な 夜の床で片側に寄り

   朝の乱れたままの髪に 櫛も通さないで

   現れて来て 月日数えながら

   嘆いているだろう 心のなぐさめに

10  ホトトギスが 来て鳴く五月の

11  菖蒲草と 花橘を

12  貫き交へて 髪飾りにせよと 包んで贈ろう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「京の家に贈るために、真珠を願う歌」となっています。

 

第18巻4111

1   かけまくも あやに畏し          かけまくも あやにかしこし

2   天皇の 神の大御代に           すめろきの かみのおほみよに

3   田道間守 常世に渡り           たぢまもり とこよにわたり

4   八桙持ち 参ゐ出来し時          やほこもち まゐでこしとき

5   時じくの かくの木の実を         ときじくの かくのこのみを   

6   畏くも 残したまへれ           かしこくも のこしたまへれ

7   国も狭に 生ひ立ち栄え          くにもせに おひたちさかえ

8   春されば 孫枝萌いつつ          はるされば ひこえもいつつ

9   霍公鳥 鳴く五月には           ほととぎす なくさつきには

10  初花を 枝に手折りて           はつはなを えだにたをりて

11  娘子らに つとにも遣りみ         をとめらに つとにもやりみ

12  白栲の 袖にも扱入れ           しろたへの そでにもこきれ

13  かぐはしみ 置きて枯らしみ        かぐはしみ おきてからしみ

14  あゆる実は 玉に貫きつつ         あゆるみは たまにぬきつつ

15  手に巻きて 見れども飽かず        てにまきて みれどもあかず

16  秋づけば しぐれの雨降り         あきづけば しぐれのあめふり

17  あしひきの 山の木末は          あしひきの やまのこぬれは

18  紅に にほひ散れども           くれなゐに にほひちれども

19  橘の なれるその実は           たちばなの なれるそのみは

20  ひた照りに いや見が欲しく        ひたてりに いやみがほしく

21  み雪降る 冬に至れば           みゆきふる ふゆにいたれば

22  霜置けども その葉も枯れず        しもおけども そのはもかれず

23  常磐なす いやさかはえに         ときはなす いやさかはえに

24  しかれこそ 神の御代より         しかれこそ かみのみよより

25  よろしなへ この橘を           よろしなへ このたちばなを

26  時じくの かくの木の実と 名付けけらしも ときじくの かくのこのみと なづけけらしも

意味:

1   言葉に出して言うことも なんとも不思議に恐れ多い

2   天皇の 神の天皇がお治めになる世に

3   田道間守(たぢまもり、古代人)は 常世国(海の異郷で永遠不変の国)に渡って

4   八本の鉾形の実をもって 帰朝した時

5   時じくの 香の木の実(橘)を

6   恐れ多くも この世に残したので

7   国も狭しと 生ひ立ち栄え

8   春になれば 枝から新しい枝が萌えて

9   ホトトギスが 鳴く五月には

10  初めての花を 枝に手折って

11  娘子らに 贈り物として贈ったり

12  白い布の 袖にもしごいて入れ

13  心引き付けられ 置いておいて枯らしてしまったり

14  木から落ちる実は 薬玉に貫きながら

15  手に巻いて 見れば飽きない

16  秋になると しぐれの雨降り

17  長く裾を引いた 山のこづえは

18  紅色に 匂い散れども

19  橘の 成熟したその実は

20  ひたすら照り輝き たいへん見映えが良く

21  美しい雪降る 冬に至れば

22  霜が積もっても その葉は枯れず

23  いつまでも変わらないで いよいよ益々照り栄えて

24  そうだからこそ 神の御代より

25  様子が良い この橘を

26  時じく(非時)の 香実(かぐのみ)と 名付けたらしい

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌の中に出てくる田道間守(たじまもり、日本書記)、古事記によると多遅摩毛理(たじまもり)は、日本書記にも古事記にも垂仁天皇の章の最後の部分に出てくる。垂仁天皇天皇を「たじまもり」を常世国に使わせて非時(時じく)の香の木の実を求めさせた。この実はいまでいう橘のことです。この9年後に垂仁天皇は崩御された。翌年の春に「たじまもり」はその木を取って常世国から戻ってきた。この木は、蔓の形になっているもの8本、鉾の形になっているもの8本です。このときすでに天皇は、お隠れになっていたので、これを捧げて叫び鳴いて「常世国の時じくの香の木の実を持って参上致しました」と申して遂に叫び死にました。というものです。この歌のタイトルは「橘の歌」となっています。

 

第18巻4116

(この歌は17章でも取り上げられました。)

1   大君の 任きのまにまに      おほきみの まきのまにまに
2   取り持ちて 仕ふる国の      とりもちて つかふるくにの
3   年の内の 事かたね持ち      としのうちの ことかたねもち
4   玉桙の 道に出で立ち       たまほこの みちにいでたち
5   岩根踏み 山越え野行き      いはねふみ やまこえのゆき
6   都辺に 参ゐし我が背を      みやこへに まゐしわがせを
7   あらたまの 年行き返り      あらたまの としゆきがへり
8   月重ね 見ぬ日さまねみ      つきかさね みぬひさまねみ
9   恋ふるそら 安くしあらねば    こふるそら やすくしあらねば
10  霍公鳥 来鳴く五月の       ほととぎす きなくさつきの
11  あやめぐさ 蓬かづらき      あやめぐさ よもぎかづらき
12  酒みづき 遊びなぐれど      さかみづき あそびなぐれど
13  射水川 雪消溢りて        いみづかは ゆきげはふりて
14  行く水の いや増しにのみ     ゆくみづの いやましにのみ
15  鶴が鳴く 奈呉江の菅の      たづがなく なごえのすげの
16  ねもころに 思ひ結ぼれ      ねもころに おもひむすぼれ
17  嘆きつつ 我が待つ君が      なげきつつ あがまつきみが
18  事終り 帰り罷りて        ことをはり かへりまかりて
19  夏の野の さ百合の花の      なつののの さゆりのはなの
20  花笑みに にふぶに笑みて     はなゑみに にふぶにゑみて
21  逢はしたる 今日を始めて     あはしたる けふをはじめて
22  鏡なす かくし常見む 面変りせず かがみなす かくしつねみむ おもがはりせず

意味:
1   天皇陛下の 与えた仕事の通りに
2   取り仕切って お仕えする国の
3   年内の 政務報告書を持って
4   素晴らしい 道に旅に立つ
5   岩や根を踏み 山を越え野を行き
6   都に 参上した主人を
7   新しく素晴らしい 年が変わり
8   月が重なり 逢えない日が長くなるので
9   恋しく悲しく 心が穏やかでない
10  ホトトギスが 来て鳴く五月の
11  アヤメ草 ヨモギを髪飾りにして
12  酒を飲んで 気を静めようと遊んだけれども
13  射水川(今の小矢部川、富山県西部)は 雪溶水があふれ
14  流れて行く水が(あなたへの恋しさを意味している) いよいよ増すばかりだ
15  鶴が鳴く 奈呉江(富山県新湊市の西部海浜)のスゲ(雑草、カヤツリグサ科)の
16  完全に 思いが塞(ふさ)がれ
17  嘆きながら 私が待っているあなたが
18  仕事が終わって 都から帰って
19  夏の野の 百合の花が咲くように
20  花が咲くような笑みで にこにこと笑顔作り
21  逢ってくださる 今日から
22  鏡を見るように このまま常に逢っていたい 年をとって顔が変わることもなく
作者:
稼久米朝巨広繻(じょうくめのあそみひろつな)が天平20年(748年、聖武天皇の時代)に、律令制のルールで任地の前年の8月1日より1年間の業務評価に必要な資料などの行政文書の提出や行政報告のために中央に派遣された使者と一緒に京に入った。報告が終わって、天平感宝元年の閏5月27日(この年は5月が2回あった)に元の任地に帰る。そこで長官の館に詩酒の宴を設けて楽しく飲んだ。そのときに主人守大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)が作った歌。

 

第18巻4119

いにしへよ 偲ひにければ 霍公鳥 鳴く声聞きて 恋しきものを

 

いにしへよ しのひにければ ほととぎす なくこゑききて こひしきものを

意味:

遠い昔を 偲べば ホトトギスの 鳴き声を聞いて 恋しいものを思い出します

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスの鳴くを聞いて作る歌」となっています。

 

第19巻4166

   時ごとに いやめづらしく         ときごとに いやめづらしく

2   八千種に 草木花咲き           やちくさに くさきはなさき

3   鳴く鳥の 声も変らふ           なくとりの こゑもかはらふ

   耳に聞き 目に見るごとに         みみにきき めにみるごとに  

5   うち嘆き 萎えうらぶれ          うちなげき しなえうらぶれ

6   偲ひつつ 争ふはしに           しのひつつ あらそふはしに

7   木の暗の 四月し立てば          このくれの うづきしたてば

8   夜隠りに 鳴く霍公鳥           よごもりに なくほととぎす

9   いにしへゆ 語り継ぎつる         いにしへゆ かたりつぎつる

10  鴬の 現し真子かも            うぐひすの うつしまこかも

11  あやめぐさ 花橘を            あやめぐさ はなたちばなを

12  娘子らが 玉貫くまでに          をとめらが たまぬくまでに

13  あかねさす 昼はしめらに         あかねさす ひるはしめらに

14  あしひきの 八つ峰飛び越え        あしひきの やつをとびこえ

15  ぬばたまの 夜はすがらに         ぬばたまの よるはすがらに

16  暁の 月に向ひて             あかときの つきにむかひて

17  行き帰り 鳴き響むれど なにか飽き足らむ ゆきがへり なきとよむれど なにかあきだらむ

 

意味:

   時毎に いや、すばらしく

2   たくさんの 草木に花が咲き

3   鳴く鳥の 声も変わる

   耳に聞き 目に見るごとに

5   溜息をつき 深く心打たれて

6   あれも良いこれも良いと 心で決めかねているうちに

7   木の下の暗い所で 四月になれば

8   夜遅く 鳴くホトトギス

9   遠い昔から 語り継がれる

10  ウグイスの まさに子そのものかも

11  菖蒲草と 花橘を

12  乙女らが 玉貫くまでに

13  美しく照り輝く 昼は休みなく

14  麓を長く引いた 八つ峰飛び越え

15  真っ暗な 夜はづっと

16  夜明け前の 月に向って

17  行ったり来たりして 鳴き声を響かすけれども なにか飽きてしまうことなどないだろう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは「ホトトギスに合わせて時の花を読む歌」となっています。