ウズラの玉子は、ニワトリの玉子とならんで、現在食用にされている。ニワトリよりもかなり小さく、その小ささ故の用途に使われている。販売されているウズラの卵の中にはある程度の有精卵があるために、購入した卵を温めるとウズラが誕生するという。万葉集中でウズラを歌った歌は、次の8首である。ウズラは、鳥綱キジ目キジ科ウズラ属ということで、キジに近い鳥ということだ。羽の色などは、キジの雌に近い色をしている。われわれの住んでいる近くで見かけることはありません。
柿本人麻呂が二つの歌で、ウズラが足を折った形で歩き回ることを見て這い廻ると表現している。これは、ウズラの動きを良く観測した結果であろう。大伴家持は、ウズラが草深いところに住んでいて、草むらに入って行くと飛び立つことを歌っている。これは、3887でも同じである。それ以外の歌では、古くなったもの形容するまくら言葉になっているものが4首ある。ウズラが荒野に住むことからこのような古いという表現のまくら言葉になったのだろう。鳥そのものがまくら言葉になっているのは、これまでの野鳥になかったことです。
11.1 万葉集 199
第2巻199
1 かけまくも ゆゆしきかも [ゆゆしけれども] かけまくも ゆゆしきかも [ゆゆしけれども]
2 言はまくも あやに畏き いはまくも あやにかしこき
3 明日香の 真神の原に あすかの まかみのはらに
4 ひさかたの 天つ御門を ひさかたの あまつみかどを
5 畏くも 定めたまひて かしこくも さだめたまひて
6 神さぶと 磐隠ります かむさぶと いはがくります
7 やすみしし 我が大君の やすみしし わがおほきみの
8 きこしめす 背面の国の きこしめす そとものくにの
9 真木立つ 不破山超えて まきたつ ふはやまこえて
10 高麗剣 和射見が原の こまつるぎ わざみがはらの
11 仮宮に 天降りいまして かりみやに あもりいまして
12 天の下 治めたまひ [掃ひたまひて] あめのした をさめたまひ [はらひたまひて]
13 食す国を 定めたまふと をすくにを さだめたまふと
14 鶏が鳴く 東の国の とりがなく あづまのくにの
15 御いくさを 召したまひて みいくさを めしたまひて
16 ちはやぶる 人を和せと ちはやぶる ひとをやはせと
17 奉ろはぬ 国を治めと [掃へと] まつろはぬ くにををさめと [はらへと]
18 皇子ながら 任したまへば みこながら よさしたまへば
19 大御身に 大刀取り佩かし おほみみに たちとりはかし
20 大御手に 弓取り持たし おほみてに ゆみとりもたし
21 御軍士を 率ひたまひ みいくさを あどもひたまひ
22 整ふる 鼓の音は ととのふる つづみのおとは
23 雷の 声と聞くまで いかづちの こゑときくまで
24 吹き鳴せる 小角の音も [笛の音は] ふきなせる くだのおとも [ふえのおとは]
25 敵見たる 虎か吼ゆると あたみたる とらかほゆると
26 諸人の おびゆるまでに [聞き惑ふまで] もろひとの おびゆるまでに [ききまどふまで]
27 ささげたる 幡の靡きは ささげたる はたのなびきは
28 冬こもり 春さり来れば ふゆこもり はるさりくれば
29 野ごとに つきてある火の のごとに つきてあるひの
[冬こもり 春野焼く火の] [ふゆこもり はるのやくひの]
30 風の共 靡くがごとく かぜのむた なびくがごとく
31 取り持てる 弓弭の騒き とりもてる ゆはずのさわき
32 み雪降る 冬の林に [木綿の林] みゆきふる ふゆのはやしに [ゆふのはやし]
33 つむじかも い巻き渡ると つむじかも いまきわたると
34 思ふまで 聞きの畏く [諸人の 見惑ふまでに]おもふまで ききのかしこく[もろひとの みまどふまでに]
35 引き放つ 矢の繁けく ひきはなつ やのしげけく
36 大雪の 乱れて来れ [霰なす そちより来れば]おほゆきの みだれてきたれ [あられなす そちよりくれば]
37 まつろはず 立ち向ひしも まつろはず たちむかひしも
38 露霜の 消なば消ぬべく つゆしもの けなばけぬべく
[朝霜の 消なば消とふに] [あさしもの けなばけとふに]
39 行く鳥の 争ふはしに ゆくとりの あらそふはしに
[うつせみと 争ふはしに] [うつせみと あらそふはしに]
40 渡会の 斎きの宮ゆ わたらひの いつきのみやゆ
41 神風に い吹き惑はし かむかぜに いふきまとはし
42 天雲を 日の目も見せず あまくもを ひのめもみせず
43 常闇に 覆ひ賜ひて とこやみに おほひたまひて
44 定めてし 瑞穂の国を さだめてし みづほのくにを
45 神ながら 太敷きまして かむながら ふとしきまして
46 やすみしし 我が大君の やすみしし わがおほきみの
47 天の下 申したまへば あめのした まをしたまへば
48 万代に しかしもあらむと [かくしもあらむと] よろづよに しかしもあらむと [かくしもあらむと]
49 木綿花の 栄ゆる時に ゆふばなの さかゆるときに
50 我が大君 皇子の御門を わがおほきみ みこのみかどを
[刺す竹の 皇子の御門を] [さすたけの みこのみかどを]
51 神宮に 装ひまつりて かむみやに よそひまつりて
52 使はしし 御門の人も つかはしし みかどのひとも
53 白栲の 麻衣着て しろたへの あさごろもきて
54 埴安の 御門の原に はにやすの みかどのはらに
55 あかねさす 日のことごと あかねさす ひのことごと
56 獣じもの い匍ひ伏しつつ ししじもの いはひふしつつ
57 ぬばたまの 夕になれば ぬばたまの ゆふへになれば
58 大殿を 振り放け見つつ おほとのを ふりさけみつつ
59 鶉なす い匍ひ廻り うづらなす いはひもとほり
60 侍へど 侍ひえねば さもらへど さもらひえねば
61 春鳥の さまよひぬれば はるとりの さまよひぬれば
62 嘆きも いまだ過ぎぬに なげきも いまだすぎぬに
63 思ひも いまだ尽きねば おもひも いまだつきねば
64 言さへく 百済の原ゆ ことさへく くだらのはらゆ
65 神葬り 葬りいまして かみはぶり はぶりいまして
66 あさもよし 城上の宮を あさもよし きのへのみやを
67 常宮と 高く奉りて とこみやと たかくまつりて
68 神ながら 鎮まりましぬ かむながら しづまりましぬ
69 しかれども 我が大君の しかれども わがおほきみの
70 万代と 思ほしめして よろづよと おもほしめして
71 作らしし 香具山の宮 つくらしし かぐやまのみや
72 万代に ぎむと思へや よろづよに すぎむとおもへや
73 天のごと 振り放け見つつ あめのごと ふりさけみつつ
74 玉たすき 懸けて偲はむ 畏くあれども たまたすき かけてしのはむ かしこかれども
注. []内は別の読み
意味:
1 言葉に出して言うことも おそれ多い
2 口に出して言うも 言い表しようがなく恐れ多い
3 明日香の 真神の原(明日香村の飛鳥大仏の一帯、狼神)に
4 永久に確かな 御所を
5 申すも恐れ多くも お定めになり
6 神々(こうごう)しく 神として隠れ(亡くなり)ました
7 国の隅々までお治めになっている 我が大君(天皇)の
8 お治めに 従わない国の
9 常緑の針葉樹の立つ 不破山(関ヶ原近く?)を超えて
10 環(わ)付きの高麗風の剣の 和(わ)射見が原(関ケ原のことの (わ)の掛かり言葉
11 仮宮(関ヶ原近くにあった)に 天武天皇が天から降りて
12 日本全国を 治めました
13 統治する国を お定めになると
14 ニワトリが鳴く 東の国(静岡、関東甲信)の
15 兵士たちを 呼び寄せて
16 勢いが激しい 人を同調させ
17 同調しない 国を治めるために
18 皇子(高市皇子)であったけれども お任せになれば
19 おからだに 大刀取って腰に付け
20 お手に 弓取り
21 皇軍を 引き連れなさった
22 整然とした 太鼓の音は
23 雷の 音のように
24 吹き鳴らす 角笛の音も
25 敵を見た 虎か吠えるように
26 たくさんの人が 脅えるまでに [聞き惑ふまでに]
27 両手で高く捧げた 旗のなびきは
28 冬が終わり 春がやって来れば
29 野ごとに 燃える火が [冬が終わって 春野を焼く火が]
30 風とともに 靡(なび)くようだ
31 弓の両端の 弓弭(ゆみはず、玄をかける部分)の音
32 み雪降る 冬の林に [幣(ぬさ、神事で神主がお祓いに使うもの)を並べたような林]
33 旋風らしきものが 激しく巻き渡る
34 心配で 身を固くして聞いていると [多くの人がの 途方に暮れるまでに]
35 引き放つ 矢が激しい
36 大雪が 乱れ来た [霰(あられ)のようなものが そちらから来るので]
37 負けずに 立ち向かった
38 露が凍って霜のようになり 消るならば消えてしまえと [朝霜が 消えるならば消えてしまえと]
39 行く鳥が 争って戦った後で [命の限り 戦った後に]
40 渡会(伊勢市)の 斎宮から起こった
41 神風が 激しく吹いて敵を惑わし
42 天雲が 日の光を遮って
43 永久の闇に 覆ってしまった
44 間違いなく 瑞穂の国を
45 神そのものとして 居を定めてりっぱに統治し
46 国の隅々までお治めになっている 我が天皇の
47 この世の中 申し上げれば
48 永遠に このようであるだろうと
49 木綿(ゆう)花(幣が花のように見える)の 咲栄える時に
50 我が天皇と 皇子の宮を [竹が勢いよく生長するような 皇子の御所の門を]
51 神宮として 立派にまつり立て
52 お使いになる 宮の人も
53 白い布の 麻衣を着て
54 埴安(香具山の西側)の 宮の原に
55 茜色に鮮やかに照り映える 日々の諸事
56 膝(ひざ)を折り 体を低く伏して
57 黒いぬばたまの実のような 日暮れどきに
58 御殿を ふり仰ぎ望み見ながら
59 鶉(ウズラ)のように ゆっくり這い廻り
60 お仕え申し上げたが お仕いできなくなれば
61 春の鳥が さまよえる
62 ため息も いまだに過ぎず
63 つらい気持ちも いまだ尽きず
64 言葉の通じない外国人のいる 百済の原(香久山と明日香の間にあった)で
65 神葬で 葬って
66 麻裳の産地の 城上の宮(高市皇子の殯(もがり)の宮があった)を
67 常宮(墓所)として 高く奉てまつる
68 神そのものとして 穏やかになり
69 しかしながら 我が皇子の
70 限りなく長い年月を お思い
71 作らせた 香具山の宮
72 長い年月が 過ぎるだろう
73 天を はるか遠く望み見る
74 美しいたすきを 心にかけてお慕いしよう 恐れ多くも
作者:
柿本朝臣人麻呂(かきのもとのあそんひとまろ)この歌には、「高市皇子尊の城上(きのへ)の殯宮(あらきのみや)の時に、柿本朝臣人麻呂の作れる歌」すなわち、高市の皇子がなくなって、もがりの宮に葬るときの歌(挽歌)である。高市皇子は、天武天皇の長男である。天武天皇の皇后の子でなかったために次代の天皇の候補にはなれなかったが、壬申の乱の勃発時に住んでいた敵の大津京から脱出して、現在の関ヶ原近くで全権をゆだねられて壬申の乱の勝利のために活躍した。この戦いの様子が見たままに表現されている。この歌は、高市皇子の死に当たってその戦いのことを称え、葬送の列がもがりの宮に向かう様子を歌ったものである。壬申の乱は古代史の中でもクライマックスの部分です。あらきの宮ともがりの宮は同じ意味ですが、天皇など死後1年程度死者の死体を保管する宮で万葉集では、あらきの宮と呼ばれている。
なお、高市の皇子の子供が長屋王であり、皇室の政治勢力として活躍したが、藤原不比等の子(藤原4兄弟)による謀反の陰謀(長屋王の変)で自殺に追い込まれた。
この歌の59行目では、ウズラが歌われている。ウズラが「這いまわる」と表現されているが、ウズラの動作が膝を折ったような姿勢で体を低くして動き廻る動作を歌ったものです。
この歌は、万葉集の中で最も長い歌です。ひらがな読みで文字数は変則的な部分を無視して約895文字になります。2番目に長い歌は第16巻の3791で文字数は読みが不明な部分や変則な部分があり正確ではありませんが、約679文字です。これに比較しても199番は長い歌であると言えます。