第7巻1165

夕なぎに あさりする鶴 潮満てば 沖波高み 己妻呼ばふ

ゆふなぎに あさりするたづ しほみてば おきなみたかみ おのづまよばふ
意味:
夕なぎに 餌を取っている鶴 潮が満ちて 沖から高波が押し寄せてくると 自分の妻を呼ぶ
作者:
万葉集の第7巻には、作者や作歌事情を記載しないものがほとんどです。この歌は前の歌と同様に「旅(羇旅、きりょ)にして作る」という50首の中の歌です。ここで羇旅に含まれるのは、吉野、山背、摂津以外の旅です。

第7巻1175

足柄の 箱根飛び越え 行く鶴の 羨しき見れば 大和し思ほゆ

あしがらの はこねとびこえ ゆくたづの ともしきみれば やまとしおもほゆ
意味: 
足柄の 箱根を飛び越え 西へ行く鶴の 羨ましい姿を見れば 大和を思い出す

作者:
万葉集の第7巻には、作者や作歌事情を記載しないものがほとんどです。この歌は前の歌と同様に「旅(羇旅、きりょ)にして作る」という50首の中の歌です。ここで羇旅に含まれるのは、吉野、山背、摂津以外の旅です。

第7巻1198

あさりすと 礒に棲む鶴 明けされば 浜風寒み 己妻呼ぶも

あさりすと いそにすむたづ あけされば はまかぜさむみ おのづまよぶも
意味: 
餌をあさろうと 磯に棲む鶴 夜が明ければ 浜風が寒いので 自分の妻をよぶ

作者:
不詳。万葉集の第7巻には、作者や作歌事情を記載しないものがほとんどです。

第7巻1199

藻刈り舟 沖漕ぎ来らし 妹が島 形見の浦に 鶴翔る見ゆ

もかりふね おきこぎくらし いもがしま かたみのうらに たづかけるみゆ
意味: 
海藻を刈る小舟が 沖から漕いで来るらしい 妹ケ島の 形見の浦に 鶴が高く飛ぶのが見える

作者:
不詳。万葉集の第7巻には、作者や作歌事情を記載しないものがほとんどです。

第8巻1453

1    玉たすき 懸けぬ時なく       たまたすき かけぬときなく
2    息の緒に 我が思ふ君は      
いきのをに あがおもふきみは
3    うつせみの 世の人なれば     
うつせみの よのひとなれば
4    大君の 命畏み           
おほきみの みことかしこみ
5    夕されば 鶴が妻呼ぶ       
ゆふされば たづがつまよぶ
6    難波潟 御津の崎より       
なにはがた みつのさきより
7    大船に 真楫しじ貫き       
おほぶねに まかぢしじぬき
8    白波の 高き荒海を         
しらなみの たかきあるみを
9    島伝ひい 別れ行かば       
しまづたひ いわかれゆかば
10   留まれる 我れは幣引き      
とどまれる われはぬさひき
11   斎ひつつ 君をば待たむ 早帰りませ 
いはひつつ きみをばまたむ はやかへりませ
意味:
1    玉のように美しいたすきを 心に懸けない時はなく
2    命のかぎり 私が思う君は
3    はかない この世の人であるから
4    天皇の詔(みことのり)に従います
5    夕方になると 鶴が妻を呼んで鳴く(次の難波潟にかかる)
6    難波潟(かつての淀川河口に広がっていた浅瀬)の 御津の崎より
7    大船に 左右そろった櫂(かい)をたくさん取り付けて
8    白波の 高い荒海を
9    島伝いに 別れて行ったならば
10   こちらに残る 私は幣(ぬさ、神社などでお祓いをする道具)を振って
11   海路の安全を祈って 君を待っています 早くお帰りなさい
作者:
笠朝臣金村(かさのあそみかねむら)が天平5年癸酉春閏三月に出航した入唐使(遣唐使)に送ったもの

 

第8巻1545

織女の 袖継ぐ宵の 暁は 川瀬の鶴は 鳴かずともよし


たなばたの そでつぐよひの あかときは かはせのたづは なかずともよし


意味:

織姫と彦星が 袖を繋いで寝る夜の 明け方には 川の瀬の鶴は 鳴かなくともよい
作者:

志貴皇子(しきのみこ)の子の湯原王(ゆはらおう/ゆはらのおおきみ)が七夕に関係する歌を歌ったもの。万葉集には、七夕を歌った歌が多数あるが、句会などのタイトルとして同席の人が歌ったものかと思われる。

第9巻1791

旅人の 宿りせむ野に 霜降らば 我が子羽ぐくめ 天の鶴群


たびひとの やどりせむのに しもふらば あがこはぐくめ あめのたづむら


意味: 

これから唐に旅する私の子が 宿る野原に 霜が降ったら 私の子を 羽でくるんで温めてくれ 空の鶴たちよ
作者:

天平5年に遣唐使の船が難波を立って海に入るときに遣唐使として出発する子のために、その子の母親が歌った歌です。この歌の前には、無事の帰国を祈る母が歌った長歌があり、この短歌は反歌になっています

 

第10巻2138

鶴がねの 今朝鳴くなへに 雁がねは いづくさしてか 雲隠るらむ

たづがねの けさなくなへに かりがねは いづくさしてか くもがくるらむ


意味:鶴の声が 今朝鳴いた丁度そのときに ガンの声が どこか目指して飛び 雲の中に隠れる


作者: 作者は不明ですが、雁を歌むという部分で13首の中の1首です。

 

第10巻2249

鶴が音の 聞こゆる田居に 廬りして 我れ旅なりと 妹に告げこそ

たづがねの きこゆるたゐに いほりして われたびなりと いもにつげこそ
意味: 

鶴の声が 聞こえるたんぼに 小屋を作って農作業をしている 私は旅に出ていると 妻に伝えよ
作者:

律令の官人が、農繁期には自分の田圃に帰って仮小屋で孤独に農作業をすることがあったという。「水田に寄する」という分類の中の歌で、作者は不明です。

第10巻2269

今夜の 暁ぐたち 鳴く鶴の 思ひは過ぎず 恋こそまされ

こよひの あかときぐたち なくたづの おもひはすぎず こひこそまされ
意味:

今夜の 夜が更けて明け方に近いころに 鳴く鶴の 妻への思いは消えない 恋が勝っている
作者:この歌の作者は不明ですが、「鶴に寄する」というタイトルが付けられています。