第7巻1263
暁と 夜烏鳴けど この岡の 木末の上は いまだ静けし
あかときと よがらすなけど このをかの こぬれのうへは いまだしづけし
意味:
朝だよと 夜烏(ガラス)が鳴いたけれど この丘の 樹木の先端の上は いまだに静かです
作者:
作者は不明です。この歌のタイトルは「臨時(その時その時に臨んでの感慨)」になっています。この歌の「この岡の」部分の原文は、「此山上之」であり、「この山の上の」とも解することができますが、烏が鳴く高いところという意味で岡のなったのかと思います。ただ、翻訳によっては、「この森の」となっている場合もあるようです。この歌では、「遠くのカラスが朝だよと鳴いたけれど近くの岡のカラスは、まだ、鳴かないよ」と二つの場所を歌っているようです。
第12巻3095
朝烏 早くな鳴きそ 我が背子が 朝明の姿 見れば悲しも
あさがらす はやくななきそ わがせこが あさけのすがた みればかなしも
意味:
朝ガラスよ 早く鳴かないでおくれ 私の恋人が 朝帰る姿を 見るのは悲しいので
作者:
この歌の作者は不明です。歌のタイトルは「寄物陳思(ものに寄せて、思いを述べる」で文字通り、カラスが早朝から鳴くことに寄せて、恋人の朝帰りの悲しさを述べています。現代人もカラスの朝鳴きには好意的な気持を持っていませんが、古代人も同じであったようです。
第14巻3521
烏とふ 大をそ鳥の まさでにも 来まさぬ君を ころくとぞ鳴く
からすとふ おほをそとりの まさでにも きまさぬきみを ころくとぞなく
意味:
カラスという 大変軽率な鳥が 予兆通りに 来ない君のことを 「コロク(子ろ(児ろ)来)」と鳴いた
作者:
この歌の作者は不明です。コロクとはいい子が来たの意味で、カラスの鳴き声がそのように聞こえたことを言っています。この歌も実際は君が来ないのに、カラスは君が来たと鳴いているということで、矢張りカラスにに対する快くない様子が歌われています。
第14巻3856
波羅門の 作れる小田を 食む烏 瞼腫れて 幡桙に居り
ばらもにの つくれるをだを はむからす まなぶたはれて はたほこにをり
意味:
インドの高僧の 作る田を 食べたカラスは 瞼が腫れて 寺の庭の旗を付けた桙の上にいる
作者:
高宮王(たかみやのおおきみ)この歌のタイトルは、「高宮王が数種の物を歌う」となっていてる。題目を与えられた数種の物を織り込んで即興で歌った歌です。幡桙とは、両刃の剣に長い柄をつけた武器にのぼり旗を付けたもので、寺や朝廷の行事のときに飾られたという。この歌は意地悪なカラスに対する仕返しをしたいという感情が表現されているように感じられます。高宮王の王の称号により天皇から2-5世離れた王族と考えられるが、天皇の名前は分からない。高宮王の歌は、万葉集中この歌の前の歌3855があるのみです。