第10巻1890
春山の 友鴬の 泣き別れ 帰ります間も 思ほせ我れを
はるやまの ともうぐひすの なきわかれ かへりますまも おもほせわれを
意味:
春の山で 友のウグイスが 泣き別れしました 友が帰って来るまでの間も 私のことを思ってください
作者:
この歌の作者は不明です。「春山の 友鴬の」は「泣き別れ」を起こすためのもので、実際の意味は、後ろの3節で、「泣き別れをしましたが、私が帰って来る間も私のことを思っていて欲しい」ということです。
第10巻1892
春山の 霧に惑へる 鴬も 我れにまさりて 物思はめやも
はるやまの きりにまとへる うぐひすも われにまさりて ものもはめやも
意味:
春の山の 霧でさ まよう ウグイスは 私よりもっと 物思いをするだろうか、いやそうではないな
作者:
柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)この歌は、柿本人麻呂歌集からのものです。
第10巻1935
春されば まづ鳴く鳥の 鴬の 言先立ちし 君をし待たむ
はるされば まづなくとりの うぐひすの ことさきだちし きみをしまたむ
意味:
春が来れば まず、最初に鳴く鳥の ウグイスのように 言葉を先にかけてくれる あなたを待ちます
作者:
この歌の作者は不明です。
第10巻1988
鴬の 通ふ垣根の 卯の花の 憂きことあれや 君が来まさぬ
うぐひすの かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみがきまさぬ
意味:
ウグイスの 通う垣根の 卯の花に いやなことでもあったのでしょうか あなたが来られないのは
作者:
この歌の作者は不明です。
第13巻3221
1 冬こもり 春さり来れば ふゆこもり はるさりくれば
2 朝には 白露置き あしたには しらつゆおき
3 夕には 霞たなびく ゆふへには かすみたなびく
4 汗瑞能振 木末が下に 鴬鳴くも ***** こぬれがしたに うぐひすなくも
意味:
1 冬の間じっとしていて 春が来れば
2 朝には 白く光って見える露がついて
3 夕には 霞が棚引く
4 暖かい日には 木の枝の先端の下で ウグイスが 鳴くことよ
作者:
この歌の作者は不明です。この歌の「汗瑞能振」は読みも不明で、意味もはっきりしません。そのまま無理に意味を考えると「汗水を振り払うような日には」と読めるような気もし ますが、春になってウグイスが鳴くことを歌っているので、少し季節が暑すぎるようなきがしますので、「暖かい日には」としておきました。
第17巻3915
あしひきの 山谷越えて 野づかさに 今は鳴くらむ 鴬の声
あしひきの やまたにこえて のづかさに いまはなくらむ うぐひすのこゑ
意味:
峰を長く引いた 山や谷を越えて 野原の小高いところで 今頃は鳴いているだろう ウグイスの声
作者:
山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)この歌のタイトルは、山部宿禰赤人が春のウグイスを詠む歌となっている。
第17巻3941
鴬の 鳴くくら谷に うちはめて 焼けは死ぬとも 君をし待たむ
うぐひすの なくくらたにに うちはめて やけはしぬとも きみをしまたむ
意味:
ウグイスの 鳴く深く切り立った谷に 身を投げて 焼け死ぬことになっても あなたを待ちます
作者:
平群女郎(へぐりのいらつめ)平群氏女郎が越中守大伴宿祢家持に贈った歌です。平群氏女郎が越中守大伴宿祢家持に贈った歌は万葉集に12首ある。
第17巻3966
鴬の 鳴き散らすらむ 春の花 いつしか君と 手折りかざさむ
うぐひすの なきちらすらむ はるのはな いつしかきみと たをりかざさむ
意味:
ウグイスは 今頃鳴き散らしているだろう 春の花を 何時になったらあなたと 手折り髪飾りにできるだろうか
作者:
大伴宿祢家持(おおとものすくねやかもlち)この歌は、大伴宿祢家持が大伴宿祢池主に 贈った悲歌の内の第二首です。この歌には、大伴家持が病にかかったときに、大伴池主に対して送った歌です。家持は、池主に対して特別な思いを持っていたようで、他でも見られるように女性に対する思いのような感情がここでも表現されていますが病で弱気になっていたことも関係しているものと思います。
即座にむだな病気に気が沈み疲れた10日を痛み苦しみました。百神に請い頼んで、かつ体力を消耗することになりました。されど、それでもやはり身体は病気疲れで、筋力は力が抜けてなよなよしてしまった。まだ、今でも見舞いに対する感謝の意を述べに参上することもできない。あなたに対する気持ちはいよいよ深くなりました。今まさに春の朝の春の花、香りを春の庭に流し春の暮れの春のウグイス、声が春の林でさえずる。この季節においては、琴と酒のような風流な遊びをするべきである。楽しさや面白さを覚えるが杖を付く労に耐えられない。一人寝所布製の衝立の裏に臥して、わづかに短小でつまらない歌を作る。気楽に相手の近辺に贈る。あごがはづれるほど笑わせる罪を犯すことにする。その歌に曰く。
第17巻3968
鴬の 来鳴く山吹 うたがたも 君が手触れず 花散らめやも
うぐひすの きなくやまぶき うたがたも きみがてふれず はなちらめやも
意味:
ウグイスが 来て鳴く山吹の花 きっと あなたが手を触れないうち 花が散ってしまうことなどないでしょう
作者:
大伴池主(おおとものいけぬし)この歌は、前の大伴家持の歌に対する返歌ですが、次のような説明(概略)が付いています。この歌では池主の家持に対する心遣いが伺えます。
すぐさまに有難いお便り恐れ多く思います。文章は勢いがあって雲をしのぐようです。さらに日本人の作った漢詩を現し、言葉の綾は錦を織ったようです。それによって歌いそれによって詠じ、十分に互いに愛する気持ちに臨んでいる。春は楽しみ暮春(三月)の風景ももちろんしみじみと感じ賞美することが望ましい。紅桃は光り輝き、戯蝶 は花のまわりを舞う。 青々とした柳は名残おしく離れがたく都のウグイスは葉に隠れて歌う。何と楽しいことでしょう。落ち着いて感情の起伏があまりなく見える人格者の交際においては席を近づけただけでお互いの心が通じて言葉は不要となります。楽しいかも立派かも知れません。交わって知られる奥深い心です。少しでも検討したであろうか。蘭と蕙の香草が草むらを隔てているように交際もかなわず、琴や酒を用いることもなく、空しく、季節が過ぎて、自然の風情が人を軽んじようとは。恨みに思うところはここにある。黙しておさまることはできない。俗の言葉でいうと、藤をもって錦に接ぐという。わずかにお笑い草に当てようとするのみ。
第17巻3969
1 大君の 任けのまにまに おほきみの まけのまにまに
2 しなざかる 越を治めに しなざかる こしををさめに
3 出でて来し ますら我れすら いでてこし ますらわれすら
4 世間の 常しなければ よのなかの つねしなければ
5 うち靡き 床に臥い伏し うちなびき とこにこいふし
6 痛けくの 日に異に増せば いたけくの ひにけにませば
7 悲しけく ここに思ひ出 かなしけく ここにおもひで
8 いらなけく そこに思ひ出 いらなけく そこにおもひで
9 嘆くそら 安けなくに なげくそら やすけなくに
10 思ふそら 苦しきものを おもふそら くるしきものを
11 あしひきの 山きへなりて あしひきの やまきへなりて
12 玉桙の 道の遠けば たまほこの みちのとほけば
13 間使も 遣るよしもなみ まつかひも やるよしもなみ
14 思ほしき 言も通はず おもほしき こともかよはず
15 たまきはる 命惜しけど たまきはる いのちをしけど
16 せむすべの たどきを知らに せむすべの たどきをしらに
17 隠り居て 思ひ嘆かひ こもりゐて おもひなげかひ
18 慰むる 心はなしに なぐさむる こころはなしに
19 春花の 咲ける盛りに はるはなの さけるさかりに
20 思ふどち 手折りかざさず おもふどち たをりかざさず
21 春の野の 茂み飛び潜く はるののの しげみとびくく
22 鴬の 声だに聞かず うぐひすの こゑだにきかず
23 娘子らが 春菜摘ますと をとめらが はるなつますと
24 紅の 赤裳の裾の くれなゐの あかものすその
25 春雨に にほひひづちて はるさめに にほひひづちて
26 通ふらむ 時の盛りを かよふらむ ときのさかりを
27 いたづらに 過ぐし遣りつれ いたづらに すぐしやりつれ
28 偲はせる 君が心を しのはせる きみがこころを
29 うるはしみ この夜すがらに うるはしみ このよすがらに
30 寐も寝ずに 今日もしめらに 恋ひつつぞ居る いもねずに けふもしめらに こひつつぞをる
意味:
1 天皇の 命令のままに
2 遠く離れた 越を治めに
3 出で来た 立派な男子である我れすら
4 世の中が いつまでも変わらないならば
5 横になって 床に倒れ伏す
6 体の痛みが 日に日に増せば
7 悲しいことをあれこれと ここに思ひ出し
8 こころに苦しく刺さることばを そこに思ひ出し
9 嘆く心は不安でならなくて 心が安らかでない
10 思う心は不安でならなくて 心が苦しい
11 尾根を長く引く 山が隔ているので
12 行き交うの 道が遠ければ
13 両方の間の使いを 派遣する方法がなく
14 心に思っていることも 言葉も通わすことができない
15 魂の極る 命は惜しいけれど
16 するべき手段の 手がかりを知らないで
17 家に隠って居て 思い嘆き
18 慰められる 心はなく
19 春の花の 咲く盛りに
20 気の合う者同士 花を折って髪に飾らず
21 春の野の 茂みを飛んだり潜ったりする
22 ウグイスの 声も聞かず
23 娘たちが 春の菜を摘もうと
24 紅色の 赤い裳の裾を濡らした
25 春雨に 衣の色がいっそう映えた
26 行き来しているだろう 時の盛りを
27 いたづらに 過ごしてしまっている
28 思い慕う 君が心を
29 有難く思う この夜中に
30 寝ることもできずに 今日も一日中 恋いしながら居る
作者:
大伴宿祢家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、大伴宿祢家持が再度、大伴宿祢池主に贈った歌です。この後、池主との間で何度も熱い手紙と歌のやり取りが続きます。文学的な気心が良く通じている様子が読み取れます。