呼子鳥は カッコウのことといわれるが、他にウグイス、ホトトギス、ツツドリなどの説もあります。 カッコウ、ホトトギス、ツツドリはよく似た鳥ですので現在のように綺麗な野鳥図鑑がない時代では、見分けることは困難だったでしょう。よって、カッコウ、ホトトギス、ツツドリがまとめて呼子鳥と呼ばれたことは、考えられます。しかし、鳥の身長がウグイス以外は30cmを超える大きさなのにウグイスは15cmで間違いの起こりにくいほどの身長しかないでの見違えることはありません。よって、ウグイスが呼子鳥だったら、他の鳥は、呼子鳥ではないと考えた方がよいでしょう。また、これ以外にもいろいろな説がありそうですが、人を呼ぶような鳴き声から呼子鳥といわれるのは正しいようです。

呼子鳥を歌った歌も誰かを呼ぶことにかけた歌がほとんどです。しかし、呼子鳥の歌は、呼子鳥自身が歌の中で主役を演じていますので様々な表現が使われています。

 

20.1 万葉集 70・1419・1447・1713・1822・1827・1828・1831・1941

第1巻70

大和には 鳴きてか来らむ 呼子鳥 象の中山 呼びぞ越ゆなる

 

やまとには なきてかくらむ よぶこどり きさのなかやま よびぞこゆなる

意味:

大和には 鳴きながら到着しているだろう カッコウは 象山との中間の山を 鳴いて越えたので

作者:

高市黒人(たけち の くろひと)持統・文武両朝の下級官人で詳細は不明。万葉集には18首の歌がある。象山(さきやま)は、奈良県吉野町の宮滝の南の山。

 

第8巻1419

神なびの 石瀬の社の 呼子鳥 いたくな鳴きそ 我が恋まさる

 

かむなびの いはせのもりの よぶこどり いたくななきそ あがこひまさる

意味:

神のいますところの 石瀬のの カッコウよ そんなに鳴かないでおくれ 私の恋しさは増すばかりだ

作者:

鏡王女(かがみのおおきみ)飛鳥時代の歌人で額田王(ぬかたのおおきみ)の姉とも親戚ともいわれる。はじめは、天智天皇の妃だったが、後に藤原鎌足の妃になった。結婚当初鎌足の身分に不満を感じる歌を詠んでいた鏡王女だが、この頃になると、恋しさが増していたようだ。鎌足の病気の平定を願って山階寺(後の興福寺)を建立した。この歌は、鎌足の死後、鎌足を思って歌った歌といわれる。

 

第8巻1447

世の常に 聞けば苦しき 呼子鳥 声なつかしき 時にはなりぬ

 

よのつねに きけばくるしき よぶこどり こゑなつかしき ときにはなりぬ

意味:

普通に 聞けばつらい カッコウの声ですが 声にひかれるように 時にはなります 

作者:

大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)この歌のタイトルは「大伴坂上郎女歌一首」となっています。

 

第9巻1713

滝の上の 三船の山ゆ 秋津辺に 来鳴き渡るは 誰れ呼子鳥

 

たきのうへの みふねのやまゆ あきづへに きなきわたるは たれよぶこどり

意味:

滝の上の 三船山から 秋津の辺りに 来て鳴き渡るのは 誰を呼んで鳴く呼子鳥(カッコウ)か

作者:

この歌の作者は不明です。この歌の三船山の場所は、奈良県吉野町の三船山が良いように思いますが、議論もあるようです。秋津の場所もわかりませんが、これが秋津島から来ていると考えると日本全体が対象になりどこだかわからなくなります。

 

第10巻1822

我が背子を 莫越の山の 呼子鳥 君呼び返せ 夜の更けぬとに

わがせこを なこしのやまの よぶこどり きみよびかへせ よのふけぬとに

意味:

私の愛しい人を 莫越山の カッコウよ あなたを呼び返せ 夜の更けぬ間に

作者:

この歌の作者は不明です。この歌は「鳥を詠む」というタイトルの一群に含まれています。

 

第10巻1827

春日なる 羽がひの山ゆ 佐保の内へ 鳴き行くなるは 誰れ呼子鳥

かすがなる はがひのやまゆ さほのうちへ なきゆくなるは たれよぶこどり

意味:

春日にある 鳥の翼形をした山から 佐保川の上流に 鳴きに行くのは 誰を呼ぶ鳥か

作者: この歌の作者は不明です。この歌は「鳥を詠む」というタイトルの一群に含まれています。

 

第10巻1828

答へぬに な呼び響めそ 呼子鳥 佐保の山辺を 上り下りに

 

こたへぬに なよびとよめそ よぶこどり さほのやまへを のぼりくだりに

意味:

誰も答えないのに 大声で呼ばないで カッコウ(呼子鳥)よ 佐保の山辺を 上がったり下りして

作者:

この歌の作者は不明です。この歌は「鳥を詠む」というタイトルの一群に含まれています。

 

第10巻1831

朝霧に しののに濡れて 呼子鳥 三船の山ゆ 鳴き渡る見ゆ

 

あさぎりに しののにぬれて よぶこどり みふねのやまゆ なきわたるみゆ

意味:

朝霧に ぐっしょり濡れた カッコウが 三船の山から 鳴き渡るのを見た

作者:

この歌の作者は不明です。この歌は「鳥を詠む」というタイトルの一群に含まれています。

 

第10巻1941

朝霧の 八重山越えて 呼子鳥 鳴きや汝が来る 宿もあらなくに

 

あさぎりの やへやまこえて よぶこどり なきやながくる やどもあらなくに

意味:

朝霧の 幾重にも峰が重なり合った山を越えて カッコウは 鳴きながらやってくる 宿もあるわけではないのに

作者:

この歌の作者は不明です。この歌は「鳥を詠む」というタイトルの歌の反歌です。