第4巻592

闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつかあらむ 逢ふとはなしに 

やみのよに なくなるたづの よそのみに ききつつかあらむ あふとはなしに

意味:

闇夜に 鳴く鶴のように 外でのみ お噂を聞くことになるのでしょうか 逢うこともなく

作者:

笠 郎女(かさのいらつめ)が大伴宿禰家持に送った24首の内の1首、笠 郎女と家持の恋は最後は家持が去ってしまった

ようです。

第4巻760

うち渡す 竹田の原に 鳴く鶴の 間なく時なし 我が恋ふらくは

うちわたす たけたのはらに なくたづの まなくときなし あがこふらくは

意味:

づっと見渡す 竹田の原(橿原市の耳成山東北、中つ道の西にある地)で 鳴く鶴の声に 絶え間がないように私はお前を案じているよ

作者:

大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ、額田王以後最大の女性歌人)が竹田の庄より、大伴坂上郎女が宿奈麻呂との長女の大嬢(おおいらずめ)に送った歌

第6巻919

若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして 鶴鳴き渡る

わかのうらに しほみちくれば かたをなみ あしへをさして たづなきわたる

意味:

若の浦に 潮が満ちて来れば 遠浅の海岸に高い波(男波)が押し寄せて 葦辺の方向に 鶴が鳴きながら渡って行く

作者:

山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひこ)が作った和歌山の海の自然の美しさを歌った長歌の反歌。赤人は、柿本人麿呂と並んで、自然を歌った歌に優れている。

第6巻961

湯の原に 鳴く葦鶴は 我がごとく 妹に恋ふれや 時わかず鳴く

ゆのはらに なくあしたづは あがごとく いもにこふれや ときわかずなく

意味:

次田の温泉の 葦の中で鳴く鶴は 私のように 妻を恋いて 時を選ばすに鳴いている

作者:

大宰府の長官 大伴卿(おほとものまへつきみ、大伴旅人)が次田(すきた)の温泉(二日市温泉、大宰府市)に宿り鶴の声を聞いて作った。

第6巻1000

子らしあらば ふたり聞かむを 沖つ洲に 鳴くなる鶴の 暁の声

こらしあらば ふたりきかむを おきつすに なくなるたづの あかときのこゑ

意味:
子供たちがいたら 二人の子供たちと聞いたものを 沖の洲(島)に 鳴く鶴の 暁の声

作者:
守部王(もりべのおおきみ、舎人親王(天武天皇の子)の子)が作る歌

第6巻1030

妹に恋ひ 吾の松原 見わたせば 潮干の潟に 鶴鳴き渡る

いもにこひ あがのまつばら みわたせば しほひのかたに たづなきわたる


意味:
妻が恋しく 吾の松原(伊勢国三重郡、現在の四日市周辺の松原)を 見渡せば 干潮で現れる潟に 鶴が鳴きながら渡って行く

作者:
聖武天皇(しょうむてんのう)が吾の松原に行幸した際に歌った歌

 

第6巻1062

1   やすみしし 我が大君の         やすみしし  わがおおきみの
2   あり通ふ 難波の宮は          ありがよふ  なにはのみやは
3   鯨魚取り 海片付きて          いさなとり  うみかたづきて
4   玉拾ふ 浜辺を近み           たまひりふ  はまへをきよみ
5   朝羽振る 波の音騒く          あさはふる  なみのおとさわく
6   夕なぎに 楫の音聞こゆ         ゆふなぎに  かぢのおときこゆ
7   暁の 寝覚に聞けば           あかときの  ねざめにきけば
8   海石の 潮干の共            いくりの   しほひのむた
9   浦洲には 千鳥妻呼び          うらすには  ちどりつまよび
10  葦辺には 鶴が音響む          あしへには  たづがねとよむ
11  見る人の 語りにすれば         みるひとの  かたりにすれば
12  聞く人の 見まく欲りする        きくひとの  みまくほりする
13  御食向ふ 味経の宮は 見れど飽かぬかも みけむかふ   あぢふのみやは  みれどあかぬかも
意味:
1   国の隅々までお治めになっている 天皇の
2   通いつづける 難波の宮は
3   クジラを捕る 海に面して
4   美しい石や貝を拾う 浜辺が近いので
5   風波が鳥の翼の羽ばたくように玉藻に寄せて 波の音が騒ぎ
6   夕なぎには 舟の楫(かい)の音が聞こえる
7   暁の 寝ざめに聞けば
8   海中の岩が 引き潮とともに現れる
9   入り江にある州には 千鳥が妻を呼び
10  葦辺には 鶴の鳴き声が響く
11  見る人が 話にすれば
12  聞く人は 見たくなる
13  天皇が食事に向かう 味経の宮(2行目の難波の宮と同じ)は いくら見ても飽きることがない

作者:
田辺福麻呂(たなべの さきまろ)の歌集の歌で宮廷儀礼歌

 

第6巻1064

潮干れば 葦辺に騒く 白鶴の 妻呼ぶ声は 宮もとどろに

しほふれば あしへにさわく しらたづの つまよぶこゑは みやもとどろに
意味:

干潮になり 葦辺に騒ぐ 白鶴の 妻呼ぶ声が 宮にもとどろく
作者:

田辺福麻呂(たなべの さきまろ)、1062の長歌に対する二つ反歌の内の2番目

 

この歌中の白鶴(しらたづ)とは、ソデグロツルのことらしい。ソデグロツルは、羽の先が黒いが飛んでいないときは、黒い部分が隠れて全体が白く見える。日本には、冬季に迷鳥としてまれに渡来して越冬するという。

第7巻1160

難波潟 潮干に立ちて 見わたせば 淡路の島に 鶴渡る見ゆ

なにはがた しほひにたちて みわたせば あはぢのしまに たづわたるみゆ

意味: 
難波の潟で 干潮に立って 見渡すと 淡路の島に 鶴が渡るのが見える

作者:
万葉集の第7巻は、作者や作歌事情を記載しないものがほとんどです。この歌は「摂津にして作る」という21首の最後の歌で、最も遠い場所の淡路を歌っています。

第7巻1164

潮干れば ともに潟に出で 鳴く鶴の 声遠ざかる 磯廻すらしも

しほふれば ともにかたにいで なくたづの こゑとほざかる いそみすらしも
意味:

引き潮になり たくさん潟に出て 鳴いていた鶴の 声が遠ざかる 磯に沿って廻っているらしい
作者:

万葉集の第7巻には、作者や作歌事情を記載しないものがほとんどです。この歌は「旅(羇旅、きりょ)にして作る」という50首の中の歌です。ここで羇旅に含まれるのは、吉野、山背、摂津以外の旅です。