第10巻1981
霍公鳥 来鳴く五月の 短夜も ひとりし寝れば 明かしかねつも
ほととぎす きなくさつきの みじかよも ひとりしぬれば あかしかねつも
意味:
ホトトギスが 飛んで来て鳴く五月の 短い夜も 一人で寝るので なかなか夜が明けないことよ
作者:
この歌の作者は不明です。
第10巻1991
霍公鳥 来鳴き響もす 岡辺なる 藤波見には 君は来じとや
ほととぎす きなきとよもす をかへなる ふぢなみみには きみはこじとや
意味:
ホトトギスが 飛んで来て鳴いて声を響かせる 岡の近くにある 藤の花見には 君は来ないというのか
作者:
この歌の作者は不明です。
第12巻3165
霍公鳥 飛幡の浦に しく波の しくしく君を 見むよしもがも
ほととぎす とばたのうらに しくなみの しくしくきみを みむよしもがも
意味:
ホトトギスのいる 飛幡の浦に 繰り返し起こる波のように あとからあとから君を 見る術が欲しいものです
作者:
この歌の作者は不明です。飛幡(とばた)は北九州市の戸畑区付近に古くからある地名です。
第14巻3352
信濃なる 須我の荒野に 霍公鳥 鳴く声聞けば 時過ぎにけり
しなぬなる すがのあらのに ほととぎす なくこゑきけば ときすぎにけり
意味:
信濃の 須我の荒野にいる ホトトギスの 鳴く声を聞けば 時が過ぎました
作者:
この歌の作者は不明です。須我は信濃にあると思われるが具体的場所は不明です。須我は菅平などの説もありますが他の説もあります。菅平は、荒野や古代人が住んでいた遺跡の存在など可能性はあると考えます。時は、ホトトギスが鳴くことで、待っていた時が過ぎたという意味です。この歌が、東歌という部分にあり、東国方言で歌われていることを考えれば、信濃生れの人が読んだと考えるのが普通ですので、ある人が信濃に帰る時を待っていたなどと考えられます。
第15巻3754
過所なしに 関飛び越ゆる 霍公鳥 多我子尓毛 止まず通はむ
くゎそなしに せきとびこゆる ほととぎす ******* やまずかよはむ
意味:
関所の通行許可証なしに 関所を飛び越える ホトトギスのように(おおらかに我は子にも) やめずに通います
作者:
中臣宅守(なかとみのやかもり)奈良時代の貴族で従五位下。藤原仲麻呂の乱に連座して除名。万葉集中には40首の歌があるが、すべて狭野弟上娘子(さののちがみの おとめ)に対する贈答歌。中臣宅守は狭野弟上娘子と結婚するが、中臣宅守は後に越前国に配流される。
第15巻3780
恋ひ死なば 恋ひも死ねとや 霍公鳥 物思ふ時に 来鳴き響むる
こひしなば こひもしねとや ほととぎす ものもふときに きなきとよむる
意味:
恋て死んだならば 恋も死ねと ホトトギス 物思う時に 来て鳴き声を響かせる
作者:
中臣宅守(なかとみのやかもり)前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。
第15巻3781
旅にして 物思ふ時に 霍公鳥 もとなな鳴きそ 我が恋まさる
たびにして ものもふときに ほととぎす もとなななきそ あがこひまさる
意味:
旅に出て 物を思うとき ホトトギスが しきりに鳴いたので 私の恋は増すばかりだ
作者:
中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。
第15巻3782
雨隠り 物思ふ時に 霍公鳥 我が住む里に 来鳴き響もす
あまごもり ものもふときに ほととぎす わがすむさとに きなきとよもす
意味:
雨が降って家に籠って 物を思う時に ホトトギスは 私が住む里に 来て鳴き響かせます
作者:
中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。
第15巻3783
旅にして 妹に恋ふれば 霍公鳥 我が住む里に こよ鳴き渡る
たびにして いもにこふれば ほととぎす わがすむさとに こよなきわたる
意味:
旅の中で 恋人を恋うれば ホトトギスが 私が住む里に 目の前を通って鳴き渡ります
作者:
中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。類似の歌が続きます。
第15巻3784
心なき 鳥にぞありける 霍公鳥 物思ふ時に 鳴くべきものか
こころなき とりにぞありける ほととぎす ものもふときに なくべきものか
意味:
感情の乏しい 鳥であるが ホトトギスは 物思うときに 鳴くのが当然なのか
作者:
中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。
第15巻3785
霍公鳥 間しまし置け 汝が鳴けば 我が思ふ心 いたもすべなし
ほととぎす あひだしましおけ ながなけば あがもふこころ いたもすべなし
意味:
ホトトギスよ 鳴く間をしばし置いておくれ お前が鳴けば 私が恋しく思う心を どうしたらよいかわからない
作者:
中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。