第8巻1499

言繁み 君は来まさず 霍公鳥 汝れだに来鳴け 朝戸開かむ

 

ことしげみ きみはきまさず ほととぎす なれだにきなけ あさとひらかむ

意味:

人のうわさが激しいので 君は来ない ホトトギスよ おまえはせめて来て鳴いておくれ 朝戸を開けるので

作者:

大伴四綱(おおともの よつな) 万葉集に大伴四綱の歌は5首ある。大伴旅人の部下として、大宰府で防人の管理(防人司佑)を行っていた。

 

第8巻1501

霍公鳥 鳴く峰の上の 卯の花の 憂きことあれや 君が来まさぬ

 

ほととぎす なくをのうへの うのはなの うきことあれや きみがきまさぬ

意味:

ホトトギスが 鳴く峰の上の 卯の花のように 悲しいことがあるのだろうか 君は来ません

作者:

小治田朝臣広耳(おはりだのあそみひろみみ)この人の詳細は不明です。この歌で卯の花のように悲しいことがあるのだろうかの部分の意味は明確でありませんが、花の開花が遅れているなどをいうのでしょうか。

 

第8巻1505

霍公鳥 鳴きしすなはち 君が家に 行けと追ひしは 至りけむかも

 

ほととぎす なきしすなはち きみがいへに ゆけとおひしは いたりけむかも

意味:

ほととぎすが 鳴いたその時 君の家に 使いとして行けと追ったが 行けたでしょうか

作者:

大神女郎(おおみわのいらつめ)大神女郎の歌は、17.1章の618にもあるが、いずれも大神郎女が大伴宿祢家持に贈ったものの。

 

第8巻1506

故郷の 奈良思の岡 霍公鳥 言告げ遣りし いかに告げきや

ふるさとの ならしのをかの ほととぎす ことつげやりし いかにつげきや
意味: 
ふるさとの 奈良思の岡の ホトトギスに 妹坂上大嬢様への言葉を告げてやったが どのように告げてきましたか

作者:
大伴田村大嬢(おおとものたむらのおおおとめ)この歌のタイトルは、大伴田村大嬢が妹坂上大嬢に贈る歌一首となっている。この歌の奈良思の岡の場所は不明です。

第8巻1507

1   いかといかと ある我が宿に        いかといかと あるわがやどに

   百枝さし 生ふる橘            ももえさし おふるたちばな

   玉に貫く 五月を近み           たまにぬく さつきをちかみ

   あえぬがに 花咲きにけり         あえぬがに はなさきにけり

   朝に日に 出で見るごとに         あさにけに いでみるごとに

   息の緒に 我が思ふ妹に          いきのをに あがおもふいもに

   まそ鏡 清き月夜に            まそかがみ きよきつくよに

   ただ一目 見するまでには         ただひとめ みするまでには

   散りこすな ゆめと言ひつつ        ちりこすな ゆめといひつつ

10  ここだくも 我が守るものを        ここだくも わがもるものを

11  うれたきや 醜霍公鳥           うれたきや しこほととぎす

12  暁の うら悲しきに            あかときの うらがなしきに

13  追へど追へど なほし来鳴きて       おへどおへど なほしきなきて

14  いたづらに 地に散らせば         いたづらに つちにちらせば

15  すべをなみ 攀ぢて手折りつ 見ませ我妹子 すべをなみ よぢてたをりつ みませわぎもこ

意味:

1   どうなっているかと心に掛けている 私の家に

   たくさんの繁茂した枝が伸びて 育った橘(みかんの一種)

   アヤメを玉に貫く 五月が近いので

   今にも落ちてしまうばかりに 花が咲いています

   朝に昼に 出で見る度に

   命がけで 私が思ふ恋人に

   鏡のように澄んだ 清き月夜に

   ただ一目 見るまでは

   散らないで欲しい ゆめと言ひつつ

10  こんなにも 私が守るものを

11  腹立たしいことに 憎らしいホトトギス

12  夜明け前の うら悲しい時間に

13  追っても追っても なほ来て鳴く

14  むなしく 地に散らせば

15  どうしようもなく つかんで引き寄せて手で折ってやる 見てください私の恋人よ

作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは大伴家持が橘の花を取って坂上大嬢に贈る歌一首となっています。大伴家持は万葉集で、48首の歌を坂上大嬢に送っています。坂上大嬢は10首の歌を大伴家持に送っています。この歌の3行目の「アヤメを玉に貫く五月が近いので」の意味は、かつて5月の節句には、アヤメの花で縛ってくす玉を作ったということで、その風習が歌われています。

 

第8巻1509

妹が見て 後も鳴かなむ 霍公鳥 花橘を 地に散らしつ

 

いもがみて のちもなかなむ ほととぎす はなたちばなを つちにちらしつ

意味:

あなたが見た 後で鳴くことが良かったが ホトトギスは 橘の花を 見る前に地に散らしてしまった

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、1507の長歌の反歌で、長歌の1507の概要が短歌で歌われています。

 

第8巻1755

この歌は、21.2章にも現れます。

   鴬の 卵の中に         うぐひすの かひごのなかに

   霍公鳥 独り生れて       ほととぎす ひとりうまれて

   己が父に 似ては鳴かず     ながちちに にてはなかず

   霍公鳥 独り生れて       ほととぎす ひとりうまれ

5   己が母に 似ては鳴かず     ながははに にてはなかず

   卯の花の 咲きたる野辺ゆ    うのはなの さきたるのへゆ

   飛び翔り 来鳴き響も      とびかけり きなきとよもし

   橘の 花を居散らし       たちばなの はなをゐちらし

   ひねもすに 鳴けど聞きよし   ひねもすに なけどききよし

10  賄はせむ 遠くな行きそ     まひはせむ とほくなゆきそ

11  我が宿の 花橘に 住みわたれ鳥 わがやどの はなたちばなに すみわたれとり

意味:

   ウグイスの たまごの中に

   ホトトギスは 一人で生れて

   自分の父と 同じようには鳴かない

   ホトトギスは 一人で生れて

5   自分の母と 同じようには鳴かない

   卯の花が 咲く野辺から

   飛びまわり 来て鳴いて騒ぎ

   橘の 花をメチャクチャにし

   一日中 鳴くけれど聞いていて快い

10  準備はしないで 遠くへ行くな

11  私の家の 橘の花に 住みつづけてよ、鳥よ

作者:

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)この歌のタイトルは、ホトトギスを詠むとなっている。鳥好きの虫麻呂の鳥に対する気持ちが良く表れています。

 

第8巻1756

かき霧らし 雨の降る夜を 霍公鳥 鳴きて行くなり あはれその鳥

 

かききらし あめのふるよを ほととぎす なきてゆくなり あはれそのとり

意味:

神が空をかき曇らせる 雨の降る夜であるのに ホトトギスは 鳴きながら飛んで行く あわれだその鳥は

作者:

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)この歌は、前の1755に対する反歌になっています。よって、1755で、ホトトギスよ何でも良いから、ここにいてくれと歌いましたが、その歌の結論で、空の状態が最も悪い時に、飛んで行ってしまったと、劇的な結末を歌っています。高橋虫麻呂は、地方の民話を複数歌にしていますが、この歌も民話でないにしても物語的に歌を仕上げています。

 

第8巻1937

1   大夫の 出で立ち向ふ        ますらをの いでたちむかふ     

2   故郷の 神なび山に         ふるさとの かむなびやまに

3   明けくれば 柘のさ枝に       あけくれば つみのさえだに

4   夕されば 小松が末に        ゆふされば こまつがうれに

5   里人の 聞き恋ふるまで       さとびとの ききこふるまで

6   山彦の 相響むまで         やまびこの あひとよむまで

7   霍公鳥 妻恋ひすらし さ夜中に鳴く ほととぎす つまごひすらし さよなかになく

意味:

1   立派な男性が 外に出で立ち向う

2   故郷の 神の鎮座する山に

3   夜が明けると ヤマグワ(桑の一種)の枝に

4   夕方が来ると 小さい松の枝先に

5   里の人が 聞いて好きになるまで

6   山彦が 互いに響きあうまで

7   ホトトギスが 妻を恋しているらしく 真夜中に鳴く

作者:

この歌の作者は不明です。この歌のタイトルは鳥を詠むとなっています。17章の618番の歌では、チドリの歌で、夜中に気落ちしているときに千鳥がやたらと鳴き続けるという歌がありましたが、ここでは、夜中に鳴くホトトギスについて歌っています。ホトトギスは夜中に飛びながら鳴くようです。

 

第8巻1938

旅にして 妻恋すらし 霍公鳥 神なび山に さ夜更けて鳴く

 

たびにして つまごひすらし ほととぎす かむなびやまに さよふけてなく

意味:

旅において 妻を恋するらしい ホトトギスは 神なび山で 夜が更けてから鳴く

作者:

この歌の作者は不明です。この歌は、前の1937番の反歌です。1937の内容をまとめています。