第16巻3873

我が門に 千鳥しば鳴く 起きよ起きよ 我が一夜夫 人に知らゆな

 

わがかどに ちどりしばなく おきよおきよ わがひとよづま ひとにしらゆな

意味:

私の家の門で たくさんの鳥がしきりに鳴く 起きよ起きよと 私の一夜妻よ 人に知られないでね

作者:

この歌の作者は不明です。この歌で、起こされているのは、一夜を共にした男で、女の歌った歌です。

 

第17巻4011

この歌は、3.4章にも出てきました。

1   大君の 遠の朝廷ぞ             おおきみの とほのみかどぞ
2   雪降る 越と名に追へる           みゆきふる こしとなにおへる
3   天離る 鄙にしあれば            あまざかる ひなにしあれば
   山高み 川とほしろし            やまだかみ かはとほしろし
5   野を広み 草こそ茂き            のをひろみ くさこそしげき
6   鮎走る 夏の盛りと             あゆはしる なつのさかりと
   島つ鳥 鵜養が伴は             しまつとり うかひがともは
   行く川の 清き瀬ごとに           ゆくかはの きよきせごとに
9   篝さし なづさひ上る            かがりさし なづさひのぼる
10  露霜の 秋に至れば             つゆしもの あきにいたれば
11  野も多に 鳥すだけりと           のもさはに とりすだけりと
12  大夫の 友誘ひて              ますらをの ともいざなひて
13  鷹はしも あまたあれども          たかはしも あまたあれども
14  矢形尾の 我が大黒に            やかたをの あがおほぐろに
15  白塗の 鈴取り付けて            しらぬりの すずとりつけて
16  朝猟に 五百つ鳥立て            あさがりに いほつとりたて
17  夕猟に 千鳥踏み立て            ゆふがりに ちどりふみたて
18  追ふ毎に 許すことなく           おふごとに ゆるすことなく
19  手放れも をちもかやすき          たばなれも  をちもかやすき
20  これをおきて またはありがたし       これをおきて またはありがたし
21  さ慣らへる 鷹はなけむと          さならへる たかはなけむと
22    心には 思ひほこりて            こころには おもひほこりて
23  笑まひつつ 渡る間に            ゑまひつつ  わたるあひだに
24  狂れたる 醜つ翁の             たぶれたる  しこつおきなの
25  言だにも 吾れには告げず          ことだにも あれにはつげず
26  との曇り 雨の降る日を           とのくもり あめのふるひを
27  鳥猟すと 名のみを告りて          とがりすと なのみをのりて
28  三島野を そがひに見つつ          みしまのを そがひにみつつ
29  二上の 山飛び越えて            ふたがみの やまとびこえて
30  雲隠り 翔り去にきと            くもがくり かけりいにきと
31  帰り来て しはぶれ告ぐれ          かえりきて しはぶるつぐれ
32  招くよしの そこになければ         をくよしの そこになければ
33  言ふすべの たどきを知らに         いふすべの たどきをしらに
34  心には 火さへ燃えつつ           こころには ひさえもえつつ
35  思ひ恋ひ 息づきあまり           おもひこひ いきづきあまり
36  けだしくも 逢ふことありやと        けだしくも あふことありやと
37  あしひきの をてもこのもに         あしひきの をてもこのもに
38  鳥網張り 守部を据ゑて           となみはり もりへをすゑて
39  ちはやぶる 神の社に            ちはやぶる かみのやしろに
40  照る鏡 倭文に取り添へ           てるかがみ しつにとりそへ
41  祈ひ祷みて 我が待つ時に          こひのみて あがまつときに
42  娘子らが 夢に告ぐらく           をとめらが いめにつぐらく
43  汝が恋ふる その秀つ鷹は          ながこふる そのほつたかは
44  麻都太江の 浜行き暮らし          まつだえの はまゆきくらし
45  つなし捕る 氷見の江過ぎ          つなしとる ひみのえすぎて
46  多古の島 飛びた廻り            たこのしま ひみのえすぎて
47  葦鴨の すだく古江に            あしがもの すだくふるえに
48  一昨日も 昨日もありつ           をとつひも きのふもありつ
49  近くあらば いま二日だみ          ちかくあらば いまふつかだみ
50  遠くあらば 七日のをちは          とおくあらば なぬかのをちは
51  過ぎめやも 来なむ我が背子         すぎめやも きなむわがせこ
52  ねもころに な恋ひそよとぞ いまに告げつる ねもころに なこひそよとぞ いまにつげつる

意味:

1   天皇の お治めになる遠い政庁に

2   美しい雪が降る 越という字が名前についている

3   空遠く離れた ひなびた土地であるので

4   山は高く 川は雄大だ

5   野は広く 草は生い茂る

6   鮎が走る 夏の盛りには

7   島の鳥で 鵜飼いをする人は

8   流れ行く川の 清き瀬ごとに

9   篝火を灯して 水に浮かび漂いながら上って行く

10  露霜の 秋になると

11  野でたくさん 鳥が集まってぎやかに鳴く

12  官人たちが 友を誘って

13  鷹は たくさんいるけれど

14  矢の形をした尾の 私の大黒に (注釈,大黒は、蒼鷹(羽毛が青色を帯びている鷹)の愛称である。)

15  白塗りの 鈴を取り付けて

16  朝猟に 五百羽もの鳥を追い立て

17  夕猟に 千羽もの鳥を踏み立て

18  追う毎に 取り逃がすことなく

19  手から飛び立って 戻ってくるのも容易な鷹は

20  この大黒をおいて 他にはない

21  それほどの手慣れた 鷹はないと

22  心では 誇りに思い

23  笑みを浮かべつつ 過ごしていたある日

24  狂った おいぼれ老人が

25  一言も 私には告げずに

26  空が一面に曇って 雨の降る日だというのに

27  鳥猟をすると それだけを告げて(大黒を勝手に連れ出してしまった)

28  (大黒が)三島野を 背後に見つつ

29  二上山を 飛び越えて

30  雲に隠れて見えなくなり 空中を飛び去ってしまいましたと

31  帰って来て せき込みながら告げた

32  だが、(大黒を)招き寄せる 手段が分からないので

33  指示する方法の 手立ても分からず

34  心の中では 火さえ燃えている

35  恋しく思い 息を止めているのに耐えきれず

36  おそらく (大黒に)逢うこともあろうかと

37  すそを長く引く 山のあちこちに

38  鳥網を張って 番人を置いて

39  霊威が強く効果の大きい 神の社に

40  輝く鏡を 青・赤などの縞を織り出した古代の布に取り添えて

41  願をかけて 私が待っていたところ

42  乙女が 夢に現れて告げる

43  汝が恋いている その素晴らしい鷹は

44  麻都太江(渋谿から氷見にかけての海岸)の 浜へ行って一日中飛んで暮らして

45  つなし(コノシロ、握り寿司のこはだ)を捕った 氷見の江を過ぎて

46  多古の島(布勢の海の東南部にあった島)を 飛び回り

47  葦鴨の 群がり集まる古江に

48  一昨日も 昨日もいました

49  早ければ いま二日ほど

50  遅ければ 七日以上

51  過ぎることはないでしょう きっと帰って来ますよあなた

52  そんなに心を込めて 恋いさないでと 現実のように告げました

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌には、逃げた鷹を思いて夢見、喜びて作る歌というタイトルがついている。この歌の後ろには、この歌の本当の状況が説明されている。それによると概略は次の通りです。射水郡の古江村にして蒼鷹を取獲った。姿は美麗しく、雉を鷙ることに秀れている。ここに養吏の山田史君麻呂(やまだのふひときみまろ)は調教時期を誤ると鷹は空高く飛んでしまい回収することができなくなった。そこで網を張って回収することを考え神に願をかけた。すると娘子が現れて「鷹が回収できるのはそれほど時間がかかりません」と告げた。そこで恨みを忘れて歌を作って待つことにした。というものですが、回収できたかどうかは分かりません。

第19巻4146

夜ぐたちに 寝覚めて居れば 川瀬尋め 心もしのに 鳴く千鳥かも

よぐたちに ねざめてをれば かはせとめ こころもしのに なくちどりかも

意味:

夜中過ぎに 目覚めて居たら 川の浅瀬をさがし求め 心もしおれるばかりに 鳴く千鳥の声が聞こえた

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、次の歌と合わせて「夜の内に千鳥の鳴くを聞く歌2首」となっています。夜鳴く千鳥については、次の歌でまとめてふれます。

第19巻4147

夜くたちて 鳴く川千鳥 うべしこそ 昔の人も 偲ひ来にけれ

よくたちて なくかはちどり うべしこそ むかしのひとも しのひきにけれ

意味:

夜中過ぎに 鳴く川の千鳥 なるほどね 昔の人も 夜中に鳴く千鳥を思い起こして来たんだね

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、前の歌と合わせて「夜の内に千鳥の鳴くを聞く歌2首」となっています。千鳥には夜中に鳴く鳥がいるようです。なお、ひとつ前の第19巻4146以外に第04巻0618(17.1章)でも夜鳴く千鳥のことが歌われています。この歌では、「真夜中に友を呼んで鳴く千鳥」と歌っています。いづれも大伴宿禰家持が作った歌または、送られた歌で、大伴宿禰家持の野鳥に対する知識の深さが感じられます。

夜鳴く千鳥に関する歌は、小倉百人一首にも次の歌があります。

 

78

淡路島 通ふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨(すま)の関守 (源兼昌(かねまさ))

淡路島で 行き来する千鳥の 鳴く声に 幾晩も目覚めてしまう 須磨(淡路島の対岸)の関所を守る役人

 

夜鳴く千鳥を歌った歌には、比較的最近のものでは、次の歌が良く知られています。この歌が発表されたの大正9年です。万葉集や小倉百人一首の影響が多いのだと思います。

 

 

浜千鳥

作詞:鹿島 鳴秋、作曲:弘田 龍太郎

青い月夜の 浜辺には
親を探して 鳴く鳥が
波の国から 生まれ出る
濡れた翼の 銀の色

 

夜鳴く鳥の悲しさは
親をたずねて海こえて
月夜の国へ消えてゆく
銀のつばさの浜千鳥

 

第19巻4288

川洲にも 雪は降れれし 宮の内に 千鳥鳴くらし 居む所なみ

 

かはすにも ゆきはふれれし みやのうちに ちどりなくらし ゐむところなみ

意味:

川の中州にも 雪が降り積もったから 宮の内で 千鳥が鳴くらしい 居るところがないので

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、天皇の住まいにお仕え申し上げて千鳥の鳴くを聞いて作る歌一首となっている。

 

第20巻4477

夕霧に 千鳥の鳴きし 佐保路をば 荒しやしてむ 見るよしをなみ

 

ゆふぎりに ちどりのなきし さほぢをば あらしやしてむ みるよしをなみ

意味:

夕霧に 千鳥の鳴く 佐保路(西側から東大寺へ進む道)を 荒らしてしまうのだろうか 見ることもなく

作者:

円方女王(まどかたじょおう/まどかたのおおきみ)この歌には「智努女王がみかまりし後に円方女王が悲しみて作る歌」というタイトルが付けられている。円方女王と智努女王は、長屋王の子。万葉集300番には、次の長屋王の歌がある。

 

300

佐保過ぎて 奈良の手向けに 置く幣は 妹を目離れず 相見しめとぞ

佐保を過ぎて 奈良山の神を祭る場所に 置く神社の幣(ぬさ)は 妻にいつも 合っていたいと言い伝えている

 

この歌から、佐保路が長屋王ゆかりの路であったが、4477では長屋王とその家族の死により佐保路は、荒れたものに変わって行くことを歌っていることが考えられえる。