おしどりの歌は万葉集に4首あるが、2首はよく言われるおしどり夫婦としてのおしどりを歌ったものです。鴛はおしどりの雄の意味で、鴦はおしどりの雌の意味で二つ合わせると鴛鴦(をしどり)になるという。万葉の時代にもおしどりは夫婦の仲が良いことの象徴になっていたという。夫婦の仲が良いという意味は中国語でも同じらしい。おしどりの夫婦は仲が良いという割には、おしどりはパートナーを1年毎に変え、子育ては雌のみが行うという。

16.1 万葉集 0258・2491・4505・4511

第3巻258

人漕がず あらくもしるし 潜きする 鴛鴦とたかべと 船の上に棲む

ひとこがず あらくもしるし かづきする をしとたかべと ふねのうへにすむ

意味:

人が船を漕がないのは 明らかである 水に潜る おしどりや小鴨が 船の上に住んでいる

作者:

鴨 君足人(かものきみたりびと)の歌で、257の歌の反歌である。この歌は、持統11(697)年、高市皇子の死で高市皇子の住まいの香久山の宮周辺の荒廃を嘆く歌と思われる。人が漕がなくなった状況が良く分かる。この歌に出てくる「たかべ」はコガモの古名でる。257の長歌に対する反歌として259番の歌もある。池の船だけでなく、香久山までも荒れてしまったことが分かる。257、258、259と続く歌については、3.1章のコガモの部分で説明していますので、そちらを参考にしてください。

 

第11巻2491

妹に恋ひ 寐ねぬ朝明に をし鳥の こゆかく渡る 妹が使か

 

いもにこひ いねぬあさけに をしどりの こゆかくわたる いもがつかひか

意味:

あの子が恋しく 寝られなかった朝早く おしどりが ここをあんなに仲良く渡るのは あの子の使いか

作者:

柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)この歌は、柿本人麻呂歌集に登録されている歌です。鴛鴦は、古来から夫婦睦ましい鳥とされていました。

 

第20巻4505

礒の裏に 常呼び来住む 鴛鴦の 惜しき我が身は 君がまにまに

 

いそのうらに つねよびきすむ をしどりの をしきあがみは きみがまにまに

意味:

磯の陰に いつも呼び合い来て住む おしどりのように いとおしくてならない私ですが あなたにお任せします   

作者:

大原今城(おおはら の いまき)敏達天皇の後裔といわれる貴族で官位は従五位上・駿河守。万葉集には、7首の歌を残している。この歌は男女の間の歌のようにも感じるが、実際は、臣下が(大原今城)が主君(中臣清麻呂)に忠誠を誓う歌です。

 

第20巻4511

鴛鴦の住む 君がこの山斎 今日見れば 馬酔木の花も 咲きにけるかも

 

をしのすむ きみがこのしま けふみれば あしびのはなも さきにけるかも

意味:

おしどりの住む あなたの最近の山荘 今日見てみれば 馬酔木(アセビ)の花も 咲いていますかね

作者:

三形王(みかたのおおきみ)三形王は万葉集に2首(4488、4511)の歌を残している。4488の歌は、三形王の邸宅で歌会を開いたもので、大伴家持も参加している。