万葉集の中で水鳥が歌われているものは、全体で8首ある。その中で、水鳥が鴨であることを歌の中で歌っているものが3首ある。1451、2720、4494である。「水鳥の鴨の羽色」のように鴨をうたったことは一目瞭然です。このような歌は、3章の鴨の部分で扱っているので、この章の対象からは外した。

この章に水鳥として歌われている鳥は、多くの場合が鴨と考えられる。急な飛び立ち、多く集まるなどは鴨の代表的な行動ですし、鴨がもっとも一般的に見られる鳥だし、だれでもが名前を知っている鳥だからです。

1543については、鴨以外が考えられる。青葉の山が鳥のように見えるというのだから、かなり大きな鳥と考えられます。考えられるところでは、一般的で神聖な感じのするダイサギなどが適合しそうです。

 

24.1 万葉集 1235・1543・3528・4261・4337

第7巻1235

波高し いかに楫取り 水鳥の 浮寝やすべき なほや漕ぐべき

 

なみたかし いかにかぢとり みづとりの うきねやすべき なほやこぐべき

意味:

波が高いな どうしようか船頭さん 水鳥のように 浮いて寝て待とうか それとも漕いで行こうか 

作者:

作者は不明です。ゆったりした気持ち状況を確認している良い歌だと思います。「やすべき」の「や」問いかけの疑問形を現し、すべき「か?」の意味になります。

 

第8巻1543

秋の露は 移しにありけり 水鳥の 青葉の山の 色づく見れば

あきのつゆは うつしにありけり みづどりの あをばのやまの いろづくみれば
意味: 
秋の露は 色を移すのだな 水鳥のように見える 青葉の山が 色づくのを見ればそう感じます

作者:
三原王(みはらのおおきみ /みはらおう)舎人親王(天武天皇の皇子)の子。万葉集における三原王の歌はこの歌1首です。

第14巻3528

水鳥の 立たむ装ひに 妹のらに 物言はず来にて 思ひかねつも

 

みづとりの たたむよそひに いものらに ものいはずきにて おもひかねつも

意味:

水鳥が 飛び立つような急な出発の準備に 親愛なる妻に 物を言わずに来てしまい 恋しい思いに堪えきれないよ

作者:

この歌の作者は不明です。 「妻のら」は親愛なる妻の意味です。

 

第19巻4261

大君は 神にしませば 水鳥の すだく水沼を 都と成しつ

 

おほきみは かみにしませば みづとりの すだくみぬまを みやことなしつ

意味:

天皇は 神でありますので 水鳥が 多く集まって鳴く水をたたえた沼を 都としてしまった

作者:

この歌の作者は不明です。内容的には、これまで、何回か歌われて来たものと同じです。

 

第19巻4337

水鳥の 立ちの急ぎに 父母に 物言はず来にて 今ぞ悔しき

 

みづとりの たちのいそぎに ちちははに ものはずけにて いまぞくやしき

意味:

水鳥が 飛び立つような急ぎの出発に 父母に 物言わずに来てしまって 今は残念でたまらない

作者:
有度部牛麻呂(うとべの うしまろ) 有度部牛麻呂の歌は、万葉集でこの1首のみです。