鷲(わし)とは、タカ科に属するのうち、オオワシ、オジロワシ、イヌワシなど、比較的大き目のものを指す通称である。オオワシが北海道や本州北部の生息であることを考えると、この歌は、オジロワシかイヌワシである可能性が高い。鷹の歌がすべて大伴家持の歌であったのに比較すると鷲の歌は、一つが高橋虫麻呂であり、他の2首が作者不明のものです。高橋虫麻呂の動物に関する深い知識があったことがこのことからも分る。大伴宿家持は、自分の趣味で飼っていた鷹を歌っていたのに比較すると、高橋虫麻呂は、自分の領域であった筑波の山を良く観察していたことが伺える。

 

23.1 万葉集 1795・3390・3882

第9巻1759

1   鷲の住む 筑波の山の           わしのすむ つくはのやまの

2   裳羽服津の その津の上に         もはきつの そのつのうへに

3   率ひて 娘子壮士の            あどもひて をとめをとこの

   行き集ひ かがふかがひに         ゆきつどひ かがふかがひに

   人妻に 我も交らむ            ひとづまに われもまじらむ

   我が妻に 人も言問へ           わがつまに ひともこととへ

   この山を うしはく神の          このやまを うしはくかみの

   昔より 禁めぬわざぞ           むかしより いさめぬわざぞ

9   今日のみは めぐしもな見そ 事もとがむな けふのみは めぐしもなみそ こともとがむな

意味:

1   鷲の住む 筑波の山の

2   裳羽服津の その泉の上に

3   声掛け誘い合わせて 娘と元気の良い青年が

   行き集いて 歌って踊る

   人妻に 私も言いより

   私の妻に 他人も言い寄る

   この山を 支配している神が

   昔より 許して来たことだ

9   今日のみは 愛おしいものにも目をつむり いろいろな事も咎めるな

作者:

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ) 日本の昔の風俗としてあったということが万葉の時代に実際にあったということが、この高橋虫麻呂の歌でわかります。この歌には高橋虫麻呂特徴として、筑波、生物、民話などが良く表れています。

第14巻3390

筑波嶺に かか鳴く鷲の 音のみをか 泣きわたりなむ 逢ふとはなしに

つくはねに かかなくわしの ねのみをか なきわたりなむ あふとはなしに

意味:

筑波山に 荒々しい声で鳴く鷲ように 声のみを上げて 泣き渡るのか もう会うこともなく

作者:

この歌の作者は不明で、下総の国の歌となっています。

第16巻3882

渋谿の 二上山に 鷲ぞ子産むといふ 翳にも 君のみために 鷲ぞ子産むといふ

しぶたにの ふたがみやまに わしぞこむといふ さしはにも きみのみために わしぞこむといふ

意味:

渋谿から見える 二上山に 鷲が子を生むという 貴人に掛ける長うちわなって 君のために 鷲が子を産むという

作者:  

この歌の作者は不明です。渋谿は富山県高岡市の海岸です。