春先にホーホケキョと鳴くのが、ウグイスのオスです。羽は褐色で、体長15cm程の小鳥です。春先に桜の枝の間を飛び廻っって、花の蜜を吸っているウグイス色の小鳥は、メジロです。メジロは、目のまわりが白くなっているのですぐ分かります。

万葉集には、ウグイスの歌が51首あり、ホトトギス、雁についで3番目に多い鳥です。

ウグイスの歌は、歌会のタイトルに指定されるようなことが多いらしく、歌の番号の近いものが多いことが特徴です。歌い方では「鳴く」ことと別のことを結びつけて歌うことが多いですが、さすがに大伴宿禰家持の歌では、他の場合に比較すると、鳴く以外の表現が使われていることがたくさんあります。

ウグイスは、梅の花と結び付けられて、「梅の花が 散ってしまおうことを惜しんで どこかで ウグイスが鳴く」的な歌がたくさんあります。また、ウグイスの歌では、場所の分かる地方の官人の歌がたくさんあるのも特徴ですが、大伴宿祢家持の近くにもこれらの官人がいて、地方役人も別の地方から派遣されている様子が伺えます。

長歌の中には複数の野鳥が歌われていて、他の章で取り扱ったものが、再度、出てくることも多い。短歌では、そのようなことは少ないが、長歌の場合は頻繁です。そのような場合、本資料では、別の章で記載したものをそのまま記載するようにした。

 

 

21.1 万葉集 824・827・837・838・841・842・845

 

第5巻824

梅の花 散らまく惜しみ 我が園の 竹の林に 鴬鳴くも

 

うめのはな ちらまくをしみ わがそのの たけのはやしに うぐひすなくも

意味:

梅の花が 散ってしまおうとしていることを惜しんで 私の庭園の 竹の林に ウグイスが鳴くことよ

作者:

阿部奥嶋(あしのおくしま、あうじのおくしま)奈良時代の官人、万葉集にはこの一首のみです。

 

第5巻827

春されば 木末隠りて 鴬ぞ 鳴きて去ぬなる 梅が下枝に

 

はるされば こぬれがくりて うぐひすぞ なきていぬなる うめがしづえに

意味:

春が来れば こづえに隠れて ウグイスが 鳴いて去るよ 梅の下枝に

作者:

山口若麻呂(やまぐちのわかまろ)奈良時代の官人。大伴旅人に使える?

 

第5巻837

春の野に 鳴くや鴬 なつけむと 我が家の園に 梅が花咲く

 

はるののに なくやうぐひす なつけむと わがへのそのに うめがはなさく

意味:

春の野に 鳴くウグイスよ 夏だというのだろう 我が家の 庭園に花が咲くよ

作者:

志紀 大道(しのうじの おおみち)奈良時代の官吏。

第5巻838

梅の花 散り乱ひたる 岡びには 鴬鳴くも 春かたまけて

 

うめのはな ちりまがひたる をかびには うぐひすなくも はるかたまけて

意味:

梅の花が 散り乱れてしまった 岡の廻りには ウグイスが鳴います 春を迎えたのですね

作者:

大隅目榎氏鉢麿(おほすみのさくわんかじもひちまろ)大隅国の四等官

第5巻841

鴬の 音聞くなへに 梅の花 我家の園に 咲きて散る見ゆ

 

うぐひすの おときくなへに うめのはな わぎへのそのに さきてちるみゆ

意味:

ウグイスの 声を聞いたちょうどそのとき 梅の花が 我が家の庭に 咲いて散るのを見た

作者:

対馬目 高氏老(こうじのおゆ)

第5巻842

我がやどの 梅の下枝に 遊びつつ 鴬鳴くも 散らまく惜しみ

 

わがやどの うめのしづえに あそびつつ うぐひすなくも ちらまくをしみ

意味:

私の家の 梅の下の枝に 遊びながら ウグイスが鳴くけれども 梅の花が散ってしまうのは惜しいです

作者:

薩摩目 高氏海人(さつまのさくわん こうじのあま)

 

第5巻845

鴬の 待ちかてにせし 梅が花 散らずありこそ 思ふ子がため

 

うぐひすの まちかてにせし うめがはな ちらずありこそ おもふこがため

意味:

ウグイスの 鳴くのを待ちかねていた 梅の花よ 散らないでほしい 思う子のために

作者:

筑前拯 門氏石足(つくしのみちのくちのじょう もんじのいそたり)

 

第6巻948

この歌は12.1章、17.2章、21.1章で取り上げられていますが、同じ内容を載せておきます。

 

1   ま葛延ふ 春日の山は        まくずはふ かすがのやまは
2   うち靡く 春さりゆくと       
うちなびく はるさりゆくと
3   山の上に 霞たなびく        
やまのへに かすみたなびく
4   高円に 鴬鳴きぬ          
たかまとに うぐひすなきぬ
5   もののふの 八十伴の男は      
もののふの やそとものをは
6   雁が音の 来継ぐこの頃       
かりがねの きつぐこのころ
7   かく継ぎて 常にありせば      
かくつぎて つねにありせば
8   友並めて 遊ばむものを       
ともなめて あそばむものを
9   馬並めて 行かまし里を       
うまなめて ゆかましさとを
10  待ちかてに 我がせし春を      
まちかてに わがせしはるを
11  かけまくも あやに畏し       
かけまくも あやにかしこし
12  言はまくも ゆゆしくあらむと    
いはまくも ゆゆしくあらむと
13  あらかじめ かねて知りせば     
あらかじめ かねてしりせば
14  千鳥鳴く その佐保川に       
チドリなく そのさほがはに
15  岩に生ふる 菅の根採りて      
いはにおふる すがのねとりて
16  偲ふ草 祓へてましを        
しのふくさ はらへてましを
17  行く水に みそぎてましを      
ゆくみづに みそぎてましを
18  大君の 命畏み           
おほきみの みことかしこみ
19  ももしきの 大宮人の        
ももしきの おほみやひとの
20  玉桙の 道にも出でず 恋ふるこの頃 
たまほこの みちにもいでず こふるのころ

意味:
1   美しい葛が張り渡る 春日山は
2   草がうちなびく 春が去りゆくと
3   山の上に 霞がたなびき
4   高いところの窓で ウグイスが鳴く
5   朝廷に仕える 多くの役人は
6   北へ帰る雁の 次々と通うこのごろ
7   このような日が続いて これといった変化がなかったから
8   友と並んで 遊んだものを
9   馬を並べて 行った里を
10  待つことができない 私の春を
11  心にかけて思うことも 恐れ多いことです
12  口に出して言うのも 恐れ多いことです
13  事の起こる前から 前もって知っていれば
14  千鳥が鳴く その佐保川(春日山を源流として初瀬川から大和川に流れる)に
15  岩の上に生える 菅(すげ、田の神の宿る神聖な植物)の根を採って
16  思い思いの草を お祓いをしておけばよかったのに
17  流れ行く水で 体を洗い清め
18  天皇の 仰せを恐れ
19  宮中の 宮廷人が
20  玉鉾の 道にも出ないで 天皇を恋ふるこの頃です。

作者:

この 歌の作者は不明です。727年(神亀四年)の春正月に、諸王・諸臣子等に勅(みことのり)して授刀寮(天皇の身辺を守る舎人の寮)に散禁(出入りを禁じる)せしむるときに作る歌となっています。このままでは意味が良く分かりません。しかし、この歌には、次のような反歌とが付いています。
06巻0949 
梅柳 過ぐらく惜しみ 佐保の内に 遊びしことを 宮もとどろに
うめやなぎ すぐらくをしみ さほのうちに あそびしことを みやもとどろに
梅や柳の 盛りが過ぎてしまうことを惜しんで 佐保の内で 遊んだことが こんなに宮中を騒がすことになった

さらにこの反歌には、次のような説明が付いています。
この歌は神亀4年の正月に数人の王子と諸臣の子たちが春日野に集いて打毬の遊びをした。その日たちまちに天が曇り、雨が降り稲光がした。この時に宮中に侍従と侍衛(天皇の警護をする人)とがいなかった。天皇は勅して刑罰を行い、みな授刀寮に解禁させ、道路に出ることができないようにした。そのとき、鬱陶しく感じて、この歌を作った。

以上の説明があると歌の意味が良くわかる。ちょっとしたストレス発散のために皆で遊びに出たら、天皇の怒りに触れて授刀寮に閉じ込められてしまった。憂鬱なことよ。と歌っているのである。

玉鉾は、道にかかるまくら言葉であるが、意味は不明とされる。玉鉾の道は剣を付けた人たちの通る道の意味と思うが、個人的には、出世の道的な理解が良いと考えている。

 

第6巻1012

春されば ををりにををり 鴬の 鳴く我が山斎ぞ やまず通はせ

 

はるされば ををりにををり うぐひすの なくわがしまぞ やまずかよはせ

意味:

春になったら 花がたくさん咲いて枝がたわむ ウグイスの 鳴く私の山荘に 休みなくおいでください

作者:

この歌の作者は明確でありません。

 

第6巻1053

   吾が大君 神の命の        わがおほきみ かみのみことの
2   高知らす 布当の宮は       
たかしらす ふたぎのみやは
3   百木盛り 山は木高し       
ももきもり やまはこだかし
4   落ちたぎつ 瀬の音も清し     
おちたぎつ せのおともきよし
5   鴬の 来鳴く春へは        
うぐひすの きなくはるへは
6   巌には 山下光り         
いはほには やましたひかり
7   錦なす 花咲きををり       
にしきなす はなさきををり
8   さを鹿の 妻呼ぶ秋は       
さをしかの つまよぶあきは
9   天霧らふ しぐれをいたみ     
あまぎらふ しぐれをいたみ
10  さ丹つらふ 黄葉散りつつ     
さにつらふ もみちちりつつ
11  八千年に 生れ付かしつつ     
やちとせに あれつかしつつ
12  天の下 知らしめさむと      
あめのした しらしめさむと
13  百代にも 変るましじき 大宮所  
ももよにも かはるましじき おほみやところ

意味:

1   当代の天皇が 神の命として
2   立派に造り営みなさる 布当の宮(恭仁宮の別名)は
3   多くの木の勢いが良く 山の木立は高い
4   落ちる水がわき立ち 浅瀬の音も澄んで美しい
5   ウグイスの 来て鳴く春には
6   高くそびえる大きな岩には 山のふもとが光り
7   金糸や銀糸で織り出したような 花が咲き枝がたわみ曲がり
8   オス鹿が 妻を呼ぶ秋には

9   雲や霧などがかかって空が曇る 冷たい雨を悲しく思い

10  赤みを帯びて美しく映えている 黄葉が散りながら

11  非常に長い年数を 生れ付き持っていながら
12  この世の中を お治めになると
13  永遠に 変ることはないであろう 皇居のある地は

作者:

田辺福麻呂(たなべのさきまろ) この歌は田辺福麻呂歌集からのものです。