第11巻2803

里中に 鳴くなる鶏の 呼び立てて いたくは泣かぬ 隠り妻はも [里響め鳴くなる鶏の]

さとなかに なくなるかけの よびたてて いたくはなかぬ こもりづまはも [さととよめ なくなるかけの]

意味:

里の中で 鳴くニワトリは  声を張りあげるが ひどくは泣かない 人の目をはばかって家にこもっている妻は[里に響くニワトリの鳴き声]

作者:

この歌の作者は不明です。隠り妻は人目につくと困る関係にある妻や恋人のこと。最後の「はも」は強い詠嘆の意味。

第12巻3194

息の緒に 我が思ふ君は 鶏が鳴く 東の坂を 今日か越ゆらむ

いきのをに あがおもふきみは とりがなく あづまのさかを けふかこゆらむ

意味:

命がけで 私が思う君は 鳥が鳴く 東の坂(足柄(あしがら)の坂)を 本日頃越えるだろう

作者:

この歌の作者は不明です。この歌のタイトルは悲別歌となっています。ここで足柄(あしがら)の坂は碓氷峠の坂とも考えられます。「鶏が鳴く」は東の枕ことばになっています。

 

第13巻3310

1   隠口の 泊瀬の国に       こもりくの はつせのくにに
2   さよばひに 我が来れば     
さよばひに わがきたれば
3   たな曇り 雪は降り来      
なぐもり ゆきはふりく
4   さ曇り 雨は降り来       
さぐもり あめはふりく
5   野つ鳥 雉は響む        
のつとり きぎしはとよむ
6   家つ鳥 鶏も鳴く        
いへつとり かけもなく
7   さ夜は明け この夜は明けぬ   
さよはあけ このよはあけぬ
8   入りてかつ寝む この戸開かせ  
いりてかつねむ このとひらかせ

意味:

1   四方から山の迫る 泊瀬(桜井市東部の初瀬川渓谷)の国に
2   夜這いに 私が来ると
3   空が一面に曇り 雪が降って来た
4   そう、曇り 雨が降って来た
5   野の鳥の キジの声が響く
6   家の鳥の 鶏も鳴いた

7   夜は明けたが 私の夜は明けない
8   君の家に入って寝たい この戸を開けてくれ
作者:

この歌の作者は不明です。この歌は、天皇が泊瀬娘子に妻問いするような歌になっていますが、余興的作成されたものと思われます。この歌の後ろには、類似の歌が少し続きます。キジを持ってきたのは、少し気品の高さを表現したものと思われますが、すぐに鶏を出したのは、現実的なものに戻したもでしょう。この歌は、9章のキジの部分でも取り上げました。この歌は

数か所の字余りがありますが、少し不思議な形式になっています。

 

第14巻3432

足柄の わを可鶏山の かづの木の 我をかづさねも 門さかずとも

 

あしがりの わをかけやまの かづのきの わをかづさねも かづさかずとも

意味:

足柄の 我に懸ける(わを可鶏山の) かづの木のように 私を誘ってください 私の家の門が開かなくても

作者:

この歌の作者は不明です。この歌の意味は、女性が男性に私の家の門が開かなくとも誘ってくれと、頼んでいる歌です。前半の意味は、不明な点もありますが、歌の意図は明確です。山の名前がカケでニワトリを表現していますので、ニワトリの歌に入れました。

第18巻4094

1   葦原の 瑞穂の国を              あしはらの みづほのくにを

2   天下り 知らしめしける            あまくだり しらしめしける

3   すめろきの 神の命の             すめろきの かみのみことの

4   御代重ね 天の日継と             みよかさね あまのひつぎと

5   知らし来る 君の御代御代           しらしくる きみのみよみよ

6   敷きませる 四方の国には           しきませる よものくにには

7   山川を 広み厚みと              やまかはを ひろみあつみと

8   奉る 御調宝は                たてまつる みつきたからは

9   数へえず 尽くしもかねつ           かぞへえず つくしもかねつ

10  しかれども 我が大君の            しかれども わがおほきみの

11  諸人を 誘ひたまひ              もろひとを いざなひたまひ

12  よきことを 始めたまひて           よきことを はじめたまひて

13  金かも たしけくあらむと           くがねかも たしけくあらむと

14  思ほして 下悩ますに             おもほして したなやますに

15  鶏が鳴く 東の国の              とりがなく あづまのくにの

16  陸奥の 小田なる山に             みちのくの をだなるやまに

17  黄金ありと 申したまへれ           くがねありと まうしたまへれ

18  御心を 明らめたまひ             みこころを あきらめたまひ

19  天地の 神相うづなひ             あめつちの かみあひうづなひ

20  すめろきの 御霊助けて            すめろきの みたまたすけて

21  遠き代に かかりしことを           とほきよに かかりしことを

22  我が御代に 顕はしてあれば          わがみよに あらはしてあれば

23  食す国は 栄えむものと            をすくには さかえむものと

24  神ながら 思ほしめして            かむながら おもほしめして

25  もののふの 八十伴の緒を           もののふの やそとものをを

26  まつろへの 向けのまにまに          まつろへの むけのまにまに

27  老人も 女童も                おいひとも をみなわらはも

28  しが願ふ 心足らひに             しがねがふ こころだらひに

29  撫でたまひ 治めたまへば           なでたまひ をさめたまへば

30  ここをしも あやに貴み            ここをしも あやにたふとみ

31  嬉しけく いよよ思ひて            うれしけく いよよおもひて

32  大伴の 遠つ神祖の              おほともの とほつかむおやの

33  その名をば 大久米主と                       そのなをば おほくめぬしと

34  負ひ持ちて 仕へし官                         おひもちて つかへしつかさ

35  海行かば 水漬く屍                           うみゆかば みづくかばね

36  山行かば 草生す屍                           やまゆかば くさむすかばね

37  大君の 辺にこそ死なめ                       おほきみの へにこそしなめ

38  かへり見は せじと言立て                     かへりみは せじとことだて

39  大夫の 清きその名を                         ますらをの きよきそのなを

40  いにしへよ 今のをつづに      いにしへよ いまのをつづに

41  流さへる 祖の子どもぞ       ながさへる おやのこどもぞ

42  大伴と 佐伯の氏は         おほともと さへきのうぢは

43  人の祖の 立つる言立て       ひとのおやの たつることだて

44  人の子は 祖の名絶たず       ひとのこは おやのなたたず

45  大君に まつろふものと       おほきみに まつろふものと

46  言ひ継げる 言の官ぞ        いひつげる ことのつかさぞ

47  梓弓 手に取り持ちて        あづさゆみ てにとりもちて

48  剣大刀 腰に取り佩き        つるぎたち こしにとりはき

49  朝守り 夕の守りに         あさまもり ゆふのまもりに

50  大君の 御門の守り         おほきみの みかどのまもり

51  我れをおきて 人はあらじと     われをおきて ひとはあらじと

52  いや立て 思ひし増さる       いやたて おもひしまさる

53  大君の 御言のさきの 聞けば貴み    おほきみの みことのさきの きけばたふとみ

   [大君の 御言のさきを 貴くしあれば]   [おほきみの みことのさきを たふとくしあれば]

 

意味:     

1   葦が一面にはえている原の 稲の穂が豊かに実る国を

2   天上から地上におり お治めになられた

3   天皇の 神様の

4   天皇の御治世を重ね 皇位の継承と

5   お治めになられ来た 天皇の御治世

6   あまねく治める  四方の国には

7   山や川があり 広く豊である

8   献上する 絹・糸・綿などの宝物は

9   数へきれず 献上し尽くすこともない

10  しかしながら 我が大君は

11  多くの人を 仏の道にお導きになり

12  大仏建立を お始めになり

13  黄金も 充分にあってほしいと

14  思って 心中気にかけておられたときに

15  鶏が鳴く 東の国の

16  陸奥国の 小田(宮城県遠田郡黄金迫)にある山に

17  黄金ありと 奏上して来たので

18  お心を 明るくして

19  天と地の 神は共に良しとして

20  天皇の 御神霊を助けて

21  遠い時代に このようにありしことを

22  我が天皇の御治世に はっきり見えるようになれば

23  統治なさる国は 栄えるものと

24  神そのものとして お思いあそばし

25  役人として 朝廷に仕える多くの官人が

26  使えるときに 物事の成り行きに従い

27  老人も 少女も

28  めいめいの願いが 満ち足りるように

29  いつくしみ お治めするので

0  このことが たいへん尊く

1  楽しく いっそう天皇を思ってしまう

32  大伴の 神である遠いご先祖の

33  その名は 大久米主といい

34  天皇を支えて 宮中に仕えた

35  海を行けば 水に漬かった屍になり

36  山を行けば 草が生(む)す屍になり

37  天皇の 近くでこそ死のう

38  過去を振り返って見みることは しないと宣言して

39  大夫(ますらを)という 清きその名を

40  遠い昔より 今の現在に

41  伝えて来た 祖先の子供です

42  大伴と 佐伯の氏(血縁的同族集団)は

43  人の祖先を 明確にするものだ

44  人の子は 祖先の名を断絶しない

45  天皇に 付き従うものと

46  言い継ける 言葉の官職である

47  梓の木で作った丸木の弓を 手に取り持って

48  つるぎを 腰に帯(おび)て

49  朝の警護と 夕方の警護に

50  天皇の 宮廷の門を守り

51  わたしをおいて 他に人はいないと

52  ますます心を奮い立たせ 思は増す

53  天皇の お言葉のはしを 聞けば尊く思う

    [天皇の お言葉のはしを 尊いと思うのだから]

作者: 大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「陸奥の国に金を出(い)だす詔書を賀す(よろこび祝う)歌」となっている。また、この歌の後には、3首の反歌があり、その後に、「天平感宝元年の5月12日に、越中の国の守が館にして大伴宿禰家持作る」という説明がある。天平感宝元年は749年の4月に陸奥からの黄金献上により改元された。聖武天皇の時代である。そしてこの年の7月には、聖武天皇は、天皇の座を娘の阿倍内親王(孝謙天皇)に譲位して、独断で出家してしまった。そのことで元号は天平勝宝に改元された。歌が作られたのは、5月ですので、黄金が献上された翌月、聖武天皇が譲位する2月前のことである。

 

この歌では、聖武天皇を謳歌して大伴氏も天皇と共にあることを歌っている。ただ、740年代に聖武天皇は4度の遷都を行っている。

まず741年に平城京(奈良市)から恭仁京(京都府木津川市)に遷都して、続いて、744年に難波宮(大阪市)へ遷都、745年には紫香楽宮(滋賀県甲賀市)へ、同年に平城京へと戻ってきます。遷都の理由は次のようなことが考えられます。

・九州で発生した藤原広嗣の乱に対する不安(ただ、乱が治まっても遷都は続く)

・天皇になるまでに見て来た天皇の座を廻る争いや周辺で発生したたくさんの殺人ともいえる事件

・このころ発生した天然痘の流行などによる国民や側近の死

・このような状況に自分の責任を感じ、遷都で打破しようとした

・聖武天皇の母親の宮子に精神的疾患があり、聖武天皇にも精神的弱さがあったことも考えられる

 

このような状況の中で、人の心を静めるために遮那仏建立の詔が、聖武天皇によって743年に当時離宮であった紫香楽宮で出され、紫香楽宮で大仏を作りが始まりました。しかし、紫香楽宮は場所的に手狭であり、天皇周辺で反対も多く山火事などの発生もあり、究極的に奈良に遮那仏が奈良の大仏として建立された。

 

従来このような説明が多かったが、最近はの説では、聖武天皇は、複都制を目指していたのだという説明がされている。この説では恭仁京開発に着手する前に、藤原広嗣の乱の前に恭仁京の開発は着手されていたので乱は遷都の原因にならない。聖武天皇の複都制の構想は、難波宮は外国を含む外部との窓口の機能、恭仁京は、平城京の大きな川がないことによる水運の悪さ、また衛生面の不備を解決する、紫香楽宮は仏都としての機能などにより新しい国を作ろうとしていたのだと説明されている。

紫香楽宮跡

紫香楽宮跡の説明

4094の歌の一部は、「海ゆかば」という軍歌に使われていることでも注目されます。また、この歌詞は、軍艦行進曲の中間部も別のメロディで歌われています。

 

海行かば 水漬く屍      うみゆかば みづくかばね

山行かば 草生す屍      やまゆかば くさむすかばね

大君の 辺にこそ死なめ    おほきみの へにこそしなめ

かへり見は せじ       かへりみは せじ

 

第18巻4131

鶏が鳴く 東をさして ふさへしに 行かむと思へど よしもさねなし

 

とりがなく あづまをさして ふさへしに ゆかむとおもへど よしもさねなし

意味:

鶏が鳴く 東を目指して ふさわしい旅に 行こうと思うが 口実がまったく見つかりません  

作者:

大伴池主(おおとものいけぬし) この歌には、次のような長い説明文がついています。「すぐさまに、家持が池主に送った小包みをもったいなく、驚いて浮き浮きする気持ちが深いです。心中に笑み含み、独りで座って、順次開いて見れば、表書きと中身が違っていました。相違い、しかも同じでない。その理由を推量するに、ちょっと策をしたのか。そうだとはっきり知った上で、申し上げるのは、恐ろしい、どうして他に、意図があるでしょうか。だいたい本物を他のものと取り換えるは、その罪は軽くありません。盗んだのであるならば、盗んだもの2倍の賠償が必要です。速やかに、合わせ差し出すべきです。今すぐ、手紙を書いて取り立て人を送り出します。直ぐに返事をしなさい。遅れてはなりません。」

 

「勝宝元年の11月12日に物を取り換えられた下役人(大伴池主のこと)が慎しんで取り替えた人を国府の裁判所の役人に訴える。特別に申すことには、おもしろいと思うことや、黙って見ていることはできない。わずかに四つの歌を述べ、眠気覚ま

しにお代えしたいと思う。」

 

四つの歌の内、最後の歌が最初に説明した4131の「旅に出たいと思うが、口実が見つからない」という歌であるが、残りの歌は次の通りです。針袋の意味は、当時、旅に出る老人が使うものという感覚があったのかも知れません。家持は、そんな気持ちを込めて贈ったのかも知れませんが、この二人の関係はしっくりしていなかったのかも知れません。

 

4128  

草枕 旅の翁と 思ほして 針ぞ賜へる 縫はむ物もが

くさまくら たびのおきなと おもほして はりぞたまへる ぬはむものもが

意味:

仮寝の床の 旅の老人と 思われて 針をくださいました 縫う物も頂きたい

 

4129

針袋 取り上げ前に置き 返さへば おのともおのや 裏も継ぎたり

はりぶくろ とりあげまへにおき かへさへば おのともおのや うらもつぎたり

意味: 

針袋を 取り上げて前に置いて 裏返したら まあ何と 裏地もついている 

 

4130

針袋 帯び続けながら 里ごとに 照らさひ歩けど 人もとがめず

はりぶくろ おびつつけながら さとごとに てらさひあるけど ひともとがめず

意味:

針袋を 身に着けて 里ごとに 見せびらかし歩いても 誰も気にしなかった 

 

4189にも家持が池主に送る歌があり5章で取り上げられていますが、家持と池主の関係は、不明ですが、親しいがお互いに不満を持つような特殊な関係であったように感じます。

 

第19巻4233

うち羽振き 鶏は鳴くとも かくばかり 降り敷く雪に 君いまさめやも

 

うちはぶき とりはなくとも かくばかり ふりしくゆきに きみいまさめやも

意味:

羽ばたきして ニワトリが鳴いたので こんなに 敷き詰めたように一面に降る雪の中を あなたは帰るのか

作者:

主人内蔵伊 美吉縄麻呂(あるじくらのいみきつなまろ) この歌は男女の間の歌でなく、宴会を終えて帰ろうとする客(家持など)を惜しんだ歌です。

 

第19巻4234

鳴く鶏は いやしき鳴けど 降る雪の 千重に積めこそ 我が立ちかてね

 

なくとりは いやしきなけど ふるゆきの ちへにつめこそ わがたちかてね

意味:

鳴くニワトリは ますますしきりに鳴いたが 降る雪が 幾重にも重なり積み重なったので 私は立つことができない

作者:

守大伴宿禰家持(かみおおとものすくねやかもち)4233に対して家持が答えた歌です。雪がたくさん降っているので、帰れな

いと歌っています。

 

第20巻4331

1   大君の 遠の朝廷と           おほきみの とほのみかどと     

2   しらぬひ 筑紫の国は          しらぬひ つくしのくには

3   敵守る おさへの城ぞと         あたまもる おさへのきぞと

4   聞こし食す 四方の国には        きこしをす よものくにには

5   人さはに 満ちてはあれど        ひとさはに みちてはあれど

6   鶏が鳴く 東男は            とりがなく あづまをのこは

7   出で向ひ かへり見せずて        いでむかひ かへりみせずて

8   勇みたる 猛き軍士と          いさみたる たけきいくさと

9   ねぎたまひ 任けのまにまに       ねぎたまひ まけのまにまに

10  たらちねの 母が目離れて        たらちねの ははがめかれて

11  若草の 妻をも巻かず          わかくさの つまをもまかず

12  あらたまの 月日数みつつ        あらたまの つきひよみつつ

13  葦が散る 難波の御津に         あしがちる なにはのみつに 

14  大船に ま櫂しじ貫き          おほぶねに まかいしじぬき

15  朝なぎに 水手ととのへ         あさなぎに かこととのへ

16  夕潮に 楫引き折り           ゆふしほに かぢひきをり

17  率ひて 漕ぎ行く君は          あどもひて こぎゆくきみは

18  波の間を い行きさぐくみ        なみのまを いゆきさぐくみ

19  ま幸くも 早く至りて          まさきくも はやくいたりて

20  大君の 命のまにま           おほきみの みことのまにま

21  大夫の 心を持ちて           ますらをの こころをもちて

22  あり廻り 事し終らば          ありめぐり ことしをはらば

23  つつまはず 帰り来ませと        つつまはず かへりきませと

24  斎瓮を 床辺に据ゑて          いはひへを とこへにすゑて

25  白栲の 袖折り返し           しろたへの そでをりかへし

26  ぬばたまの 黒髪敷きて         ぬばたまの くろかみしきて

27  長き日を 待ちかも恋ひむ 愛しき妻らは ながきけを まちかもこひむ はしきつまらは

 

意味:

1   天皇の 大宰府と

2   不知火(しらぬい、陰暦七月末ごろの夜、無数に見える火影)の出る 筑紫の国は

3   敵から守る 防御の城だと

4   お治めあそばす 四方の国には

5   人がたくさん 満ちているが

6   鶏が鳴く 東男は

7   向かって行って わが身を顧みずに

8   勇ましく 勇猛な軍士と

9   ほめねぎらわれて 任命されるままに

10  私を育てあげた 母と離れて

11  若草のようにみずみずしい 妻とも共寝せず

12  新年の 月日を指折り数えつつ

13  葦の多い 難波の御津(古代の難波の港、現在場所不明)に 

14  大船に 楫を隙間なく突き通し

15  朝なぎに 船を操る人をまとめ上げて

16  夕潮に 楫をたわむほど強く引き

17  調子を合わせて 漕ぎ行く君は

18  波の間を 行って間を縫って進む

19  無事に 早く行き着いて

20  大君の 指示のままに

21  長官の 心を持って

22  任国をづっと見回り続けて 仕事が終ったら

23  病気にならず 帰って来なさいと

24  神にささげる酒を入れる神聖なかめを 床にしっかり置いて

25  白い布の 袖を折り返し

26  ぬばたまの実のような 黒髪を夜の床に敷いて

27  長き日を 待ちそして恋う 愛しき妻らは

作者:

兵部少輔大伴宿禰家持(ひょうぶしょうゆう おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「防人が悲別の心を痛みて作る歌」となっています。家持は、754年に兵部少輔(従五位下)に757年には兵部大輔(正五位下)に昇進している。755年には難波で防人の検校を担当している。この歌は、兵部少輔の頃、防人を管理する立場で、防人の気持ちが良く分かって歌です。気持ち的には、辛い立場だったと思います。

 

第20巻4333

鶏が鳴く 東壮士の 妻別れ 悲しくありけむ 年の緒長み

 

とりがなく あづまをとこの つまわかれ かなしくありけむ としのをながみ

意味:

鳥が鳴く 東の国の勇ましくて元気のいい男の 妻との別れ 悲しかっただろう 何年も続く長さよ

作者:

兵部少輔大伴宿禰家持(ひょうぶしょうゆう おおとものすくねやかもち)この歌は、この前の第20巻4331の反歌として歌われたもので、第20巻4331の歌を要約した内容になっています。