10.1 万葉集 2167・1897

 

万葉集では、モズを歌った歌は二つしかありません。万葉の時代、モズをモズとして認識するのは大変難しいことだったと思います。現在では、鳥の判定は、カメラで写した野鳥の写真を野鳥図鑑と比較して判定します。また、野鳥図鑑では、野鳥の写真に限りがあって判定が難しい場合は、インターネットで色々な写真を見て判定することもできます。カメラもない、野鳥図鑑もない、インターネットもない万葉の時代では、数の少ない鳥の名前を判定することは、非常に難しいことだったに違いありません。しかし、万葉集に出てくるモズの歌は、本当にモズを正しく認識して歌われたのだということが感じられます。

モズ

 

写真のように瞳や毛色が美しく優しい鳥は、妻を思い出すには十分と思います。また、モズは百舌鳥と書くように、百の舌をもっていろいろな鳴き声をしますが、こんなことも理解していたし、冬が中心の鳥であることなども理解していたように思います。万葉の時代にも野鳥が良く観測されていて、知っている人は良く知っていたのだなと感じます。

 

第10巻1897

春されば もずの草ぐき 見えずとも 我れは見やらむ 君があたりをば

 

はるされば もずのくさぐき みえずとも われはみやらむ きみがあたりをば

意味:

春が来て モヅが茂みに隠れて 見えなくなっても 私は見てます あなたのいる辺りを

作者:

この歌の作者は不明です。この歌のタイトルは「鳥に寄す」となっています。「もずの草ぐき」とは、春になって里にモズが見えなくなることを百舌(もず)の草潜(くさぐき、草にもぐる)といったものです。モズは可愛い表情の鳥ですので、君にかかるのかと思います。

 

モズ

 

 

第10巻2167

秋の野の 尾花が末に 鳴くもずの 声聞きけむか 片聞け我妹

 

あきののの をばながうれに なくもずの こゑききけむか かたきけわぎも
意味:
秋の野の ススキの花の先端で 鳴くモズの 声を聞いているだろうか 良く聞きなさい我が妻よ
作者:
この歌の作者は不明です。タイトルは「鳥を詠む」となっています。この歌の「片聞け」とは「ひたすらに聞きなさい」という意味です。モズは、スズメよりも少し大きい鳥(20cm)が小鳥です。モズは、他の鳥の鳴き声をマネしたり、クチバシをカタカタいわせたり、高鳴きしたりどれが本当の鳴き声なのか定まりません。この歌では、このような複雑なモズの声よく聞けと歌っている訳です。なぜ、ここで妻に話かけるのか。モズの優しく美しい顔から妻を思い出すのでしょう

 

モズは、昆虫やカエルなどの小型の生き物を食用にしている。樹上や写真のような菜園の高いところで、地上を見ていて襲いかかる。このページに掲載したモズの写真は、私の菜園で撮影したものです。襲いかかって獲得した獲物は、そこで食用にするが、モヅは、食べなかった獲物を木のトゲなどに刺して保存することがある。保存した獲物は、後日また食用にするものと思われますが、忘れて残すことがある。この残された昆虫やカエルなど「はやにえ」と言う。速贄と書く。速贄とは「初物の供え物」という意味である。

下の写真は、カラタチのトゲに刺されたカエルの百舌鳥の速贄です。

カラタチのトゲに刺されたモズの速贄(はやにえ)